048 常人離れした動きのできる者は常人との喧嘩には強い
(このコ、ひょっとして、ちょろインじゃない?)
ヒーナック・ゲッカーは内心にそんな感想をもってしまう。
ちょろインとは「ちょろい」と「ヒロイン」を合わせた造語である。
この場合の「ちょろい」とは、(おもに主人公による)該当ヒロインの攻略や篭絡が非常に簡単であるという意味。
あと少しすれば落とせるのではないかという自信がある。
ヒーナっクからすれば、解放区で王立学園の生徒がうろちょろして今回の毛かの被害が広がるのがこわい。
下手をすれば、ヒーナっクが解放区を出入りする学校側からの許可まで取り消されるやもしれない。
ルイには穏便に、本人の意思で、安全な場所に戻ってもらうのが一番。
そのようにヒーナックはルイ・ハツネテイク男爵令嬢のことを判断していた。
(もしも、ボクが悪いヤツだったら大変なことになっているよ)
田舎からあがってきたショートカットの男爵令嬢。
もともとゲームキャラらしく絵に描いたような美少女である。
周囲から頼りにされるクールな大人びた存在として振る舞う。
しかし、前世の記憶を持ちこしているヒーナックの目からすれば、どうしたって子ども。
(何か頑張ってるけど、このコのことを頼りにしたら絶対にダメでしょ)
能力的には、そういう低い評価になってしまう。
前世において二宮ヒナコだった頃、もともとの【夢幻郷と君の微笑み】というタイトルの乙女ゲームのプレイ経験がヒーナック・ゲッカーにはあった。
まわりと話をあわせるためにゲームをやっていた時も思ったのだが、ルイはかけひきにあまり向いてない。
ヒーナックが思うに、レイがルーのことにこだわるのは、周囲の評価 と逆に、学園内においてルーがレイのことを世話していたという面があるからではないか?
外見を裏切るようにとっぽい。
横で誰かが隠れて世話を焼いてやらないと、彼女はろ校内で今のイメージを保つことはてできないようらも感じる。
(ちょっと目が離せないというか、心配になる)
そんなことをヒーナックは思う。
冗談じゃない。
ろくに準備もせず解放区みたいなところに貴族の娘が一人で出かけるなんて。
* *
「王立学園の生徒か?」
そんな声がした。
正面から一人の男が近づいてくる。
性質のよくなさそうだ。
「あの、何か・・・?」
と、レイ。
相手の男は彼女よりも頭一つは大きい。
「ちょっと来い」
声が聞こえた。
それとともに、男は、相手が女に思って、自信たっぷりの態度でレイに堂々と正面から歩み寄った。
あからさまな気組みの違い。
レイは飲まれてしまった。
怪しいヤツがいればとりあえずぶちのめしてから考えるといった習慣をレイはもつていない。
名門の王立学園の生徒であり、捜査機関からの呼び出しが多くて、「卒業に出席日数が足りているのか?」と心配するような無頼学生ではない。
慣れないトラブルにレイの身体はあっさり固まった。
男は大きな両手でレイの左手をつスんで引こうとした。
その瞬間に、小柄なヒーナックが走った。
宙を舞った。
ヒーナックは前にふみだした男の左膝を踏み台にして飛び、空中で一回転して、右の後ろ回し蹴りを男の延髄に放り込んだ。
そんな馬鹿なの一撃。
野生の猫じみている。
常人離れした動きのできる者は常人との喧には強い。
相手がありえないと無防備にしているところに、ひょいと自分の技を置くことができるからだ。
ヒーナックの蹴りは、男の延髄にきれいに叩き込まれた。
「げ・・・」
男はうめきながら、地面に転がった。
レイは男の手を振り払う。
強いから余裕があるというのではない。
単純に彼女は荒事に慣れていないのだ。
それでも、レイは、男を蹴ったヒーナックに視線を向けたた、
「大丈夫ですか?」
ヒーナックは、少し感心した。
「この程度の相手なら、ボク一人で十分」
「は・・・はい」
呆然としているレイ・ハツネテイク男爵令嬢に、ヒーナックは軽口を叩いてみせた。
「ようこそ、解放区へ。ちょっとでも危ないと思ったら、今から学生寮のまでもでボクがお送りしますよ」




