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046 それを指摘しておくようなことは決して差別ではない

 なんだかんだあって、行方不明になったルーのことをさがすという名目で、レイ・ハツネテイク男爵令嬢は、ヒーナック・ゲッカー公子と解放区を動きまわることになった。

 依然として気配を断っているヒーナックの護衛。

 レイにとって、どうにも居心地がよくない。


(はたから見ると、テートしているように見える?)


 妄想?

 彼とやましいことはしていない。

 あくまでも友人のルーのことが心配でルーを解放区に探しにきたのだ。

 同行はヒーナック・ゲッカーの側から申し出たのである。

 さりとて、相手は貴人。

 国の大貴族であるゲッカー公爵家の跡取り。

 まかりまちがっても、ハツネテイク男爵令嬢では家格が少しつりあわない。

 それでなくても、ヒーナックは成績優秀で王立学園に入ってきた年下の男の子。

 その上、とびきりがつくほどに愛らしい美少年である。

 学校の関係者がみれば、


(解放区での友人の行方不明を材料にして、たかだか男爵令嬢がヒーナック公子にコナをかけてたぶらかそうとしている)


 と邪推するのではないか?

 解放区を歩くためにレイは用心のために男装しコているが、それとても【変態女】といった非難の対象になるだろう。

 泣いても笑っても王立学園の世界は狭い。

 噂話や評判。

 そういう世界のことは王立学園の生徒であるレイ・ハツネテイクもある程度はわかっていた。

 注意して気を配っていないと、いつのまにか社会的生命を断たれている。

 カタチ、カタチ、それに、カタチ。

ヒーナック 直接にココロのわからないヒトの世においては、カタチを少し踏み外すことか命取りになることがある。

 カタチについての知識と教養は、言うなれば、目に見えない魔法。

 本当にちょっとしたことが重大に結果をうむことがある。

 ある意味、解放区よりも怖い世界なのだ。

 はあ、とレイは溜め息をついた。


「もしかして、ヒーナックさまがお近くにいたら、コワイことになるかも」

 

 ヒーナックはたずねる。


「コワいことって?」


 レイは答えた。


「変な噂がたってしまうかもしれませんよ」


 何だ、とヒーナックぱクスクス笑った。


「ボクと噂になるのはイヤ?」


 邪気のない笑顔である。


(この笑顔にやられた女の子って多いんだろうなぁ)

 

 とレイは思う。

 うまく言えないが、ヒーナックの立ち回りはずるいのだ。

 もしも、今、ここでレイが強烈にヒーナクをはねのけようとすれば、それはそれで、身の程知らずの増上慢といったレイにとって悪い噂につながるだろう。


「いえいえ、そういうわけではありませんけど」


 レイの心の内を読んだかりようにヒーナックは言う。


「ちょっとした事件ですよ、もしも、ハツネテイク男爵令嬢がゲッかー公爵家の跡取りの同行の申し出を断ったりしたらね。

 今ここは本当に危ないもの、王立学園の聖地にとっては、ね。特に用がければ行かないのが正解だって思います。

 今の解放区で一人歩きしなければいけない特別な理由があったのかという話になります」


 こどもの探偵ごっこ?

 レイは笑った。


「ありませんよ、そんな特別な理由は」


 ヒーナックは言う。


「疑うひとはいつだって色々と疑ってしまいます。普通が一番とか、そんなことを言うひとがいますね?」

「いますねえ」


 レイはうんざりしてしまう。、

 ヒーナックは語る。


「普通の問題が普通のやり方でうまくいってすぐに何もなかったように元の世界に戻る。

 そうてうのが理想ってと感じる人は多いみたいですね?

 でも、現実の世の中はイヤになるほど難しい。

ろ何でも、そんな簡単にうまくいくようなことはありません」


 興に乗ったのか、ヒーナックの話は続いた。


「下の民度を上げれば、上が打っ手を増やせます、上の仕えるカードが増えます。

 そこで、下の者に対する義務教育・標準語教育を説くひとも出てきます。

 もちろん、【多文化の尊重にもとる】と騒ぐような人も現れます。

 それは『多文化の尊重』というのは趣旨ごもっともなのです。

 雪が分厚く降る地域で『女はロングスカートをはけ』だなんて、よほどの馬鹿でないかぎり、誰も騒ぎませんよ?

 スカートが足に絡まって遭難します。

 笑っちゃうほど簡単に。

 話を戻しましょうか?

 普段に下の民度を上げておからいと、上は自分の権威を保つため、下に引きずられて、わかりやすい手を打つしかなくなります。

 ひどい時には、自分たちの側が悪いとわかっていても、上の者はわかりやすい力を示すために戦争や内乱といった過激な手段に踏み切らざるを得なくなります」


 ヒーナックには前世の記憶がある。

 孫子の兵書から『将の五危』も説いた。


「もちろん、下の者の教育は時間も手間もかかかります。 それに、下が利口になると、上は下手なこと画ではなくなります。下の者には何も教えなくてもいいという考え方もあります」、


   *  *


 人を従わせることはできても、なぜ従わなければならないかを理解させることはできない。


 古来に上位者は下位者に帰納法的な考え方を教えるのに苦労したらしい。

 そして、多くの文化てせあきらめた。


 ━━民は之に由らしむべし、之を知らしむべからず━━


 孔子の『論語』の教えである。 大陸の儒教の考え方によれば、上のカリスマを高めることが最優先される。


 情報統制・移動の制限・強制収容所・思想教育・粛清・・・


 すべては、別のことを考える者たちを素早く発見して撲滅するための技法である。

 古今東西であたりまえ。

 それを指摘しておくようなことは決して差別ではない。


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