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043 ヤバイことも起きるから一人歩きはしない方がよい

 レイ・ハツテイクが夕焼けの解放区をひとりで歩いている姿を見かけた時、ヒーナック・ゲッカーは驚いた。


「あれ?」


 念のために周囲をさぐる。

 一人も護衛をつけているという様子はない。


「何してんの・・・?」


 正直なところ、今、王立学園の学生は解放区で狙われている。

 よほどに自信がなければ一人歩きなどするものではない。

 普通であれば関わり合いのないように見なかったことにする程度の世間知はヒーナックにあった。

 しかし、好みの女の子。

 レイはゲームのシナリオである攻略対象を狙うと、ヒロインの恋敵になる。

 そういう役回りに応じたショートカットの美少女。

 危険な目にあわせるのはしのびない。

 ひっそりと彼女の背後にヒーナックはしのびよった。


「レイさん」

「わ!」


 突然に死角から声をかけられたことに驚いてもレイは高くとびあがる。

 かまわずヒーナックは続けた。


「解放区への立ち入りについては、王立学園の者は原則として禁じられています。ボクみたいに特別な許可がないかぎりはね」


 想定外の事態であったらしく、レイはまごつく。


「ひ、ヒーナック公子・・・」


 こまったな、とヒーナックは思う。


(しっかりしているよう見えて、このコは頼りにならない)


 この世界ではレイが年上であろうが、ヒーナックが前世からの記憶を持ち越している以上、レイが年下の女の子に見える。 

 ヒーナックは、そんなレイを安心させてやろうとする。


「本当はいけないのですがね、ルーさんの行方を探すならば、ちょっと、つきあいますよ」

「え? 」

「一人で歩くのは危ない。ボクがついてあげます」

「・・・いいんですか?」


 ヒーナックは言う。

「でも、解放区での一人歩きはやめてください、レイさん。何かあったら大変です。せめて、解放区に出向く前に、ボクに一言声をかけてください。かわいいコ限定でボクは相談にのります」 


 ━━かわいいコ限定で━━

 わざとツッコミどころをつくった。

 しかし、レイはそれに反応する余裕がない様子で頭をさげた。


「ありがとうございます」


 ヒーナックとしてボーイッシュな美少女が【かわいい】と言われてドギマギする絵を少し期待した。

 しかし、うまくいかない。


(ちぇっ)


 レイは解放区で消えた友人のルーのことが、よほど心配の様子。

 気持ちはわかるが、下手に動き回って、自分まで危険な目にあうようなことは感心しない。

 作戦名は【いのちだいじに】で。

 念のために、ヒーナックは確認した。


「こんな場所に来るのに、護衛なし?」


 少し咎めるような口調。

 レイは答える。


「あなただって護衛がいないのでは?」


 ヒーナックは動じない。


「近頃は、王立学園の生徒がさらわれたりして、解放区も物騒ですからね。きちんと影供がついていますよ」

「え?」

「レイさんが気づいていないだけですが、たった今も腕利きの護衛が今も僕についております」


 影供にまわってくれたモカさんのことはヒーナックも信用している。

 フォウとも面識がモカさんにはある。

 モカさを通じて、ヒーナックは解放区の【05の居場所】に潜り込んだ。

 何でもアリの解放区でも強者と評価される戦士。

 自分一人で十分と強がりたいところだが、状況が状況である。

 レイのような少女に今の解放区を一人歩きしてほしくない。

 あまりにも危険だ。

 ヒーナックも護衛をつけていると明かした方が、レイも安全を配慮するのではないか?

 はあ、とレイは溜め息をつく、


「私の家は地方の男爵家でして、そこまでのことはできませんよ」


 そんなものか、とヒーナックは思う。


「ルーさんを探すことにあまりご無理をなさらないように」

「でも・・・」


 おそらく友人のためにできるだけのことはしてやりたいと彼女は思っているのだろう。

 気持ちはわかる。

 さりとて若い。

 解放区で自分ができることの限界を彼女は見切ることができていないのではないか?

 ヒーナックは言う。


「この地では何が起きるか予測がつきません。通りを一本はずれると、時間の流れる速さが違っていて、三日も出てこなかったという話ももあります」


 レイはうなずく。


「はい」

 

 どこまで本当かわからないが、解放区に出向くようになって、ヒーナックも不可思議な話を色々と聞いている。

 用心をした方がいい。

 忠告。


「この土地は慣れない者が歩くと、どんな事件や事故に巻き込まれるか、わかったものではありませんよ」


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