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041 ろくに理由を示さず個性尊重とか言うのは陳腐すぎる

 ┅┅危ない場所にひとりで突っこむ馬鹿がイカシているじゃないの?

 

 この世界では男の子に転生したヒーナックはそんなことを思わないでもない。

 しかし、状況が状況だった。

 この世界のヒーナック・ゲッカーはゲッカー公爵家の跡取りである。

 下の者に対する責任がある。

 解放区から迎えの護衛としてモカさんを呼んだ。

 モヒカン刈りの筋肉ダルマの巨漢。

 その外見は見るからにコワモテだ。

 実際に強い。

 この世界に呼ばれる前に異界で何をしていたか知らないが、人知を超えたバケモノの雰囲気がある。

 ヒーナックとしては、解放区に行くのは自分一人で十分という気分はあった。

 とはいえ、護衛がついてくれるのならばありがたい。

 まだ若いヒーナックが治安のよくない解放区に通うことを不安に思っているゲッカー公爵家の者を説得するためのいい材料になる。

 たとえ試験をされたところでモカさんは護衛としても文句なしに優秀だった。

 いったいどこで覚えたのやら、その技量は、バケモノじみている。

 安心して、ヒーナックは背後をまかせることができそうだった。


   *  *


 さて、解放区に行くのにヒーナックが護衛付きになって、ゲッカー邸では、ヒーナックの姉のカオリが騒いだ。


「あたしも解放区に行きたい」

「何いったい何をしに行くのさ?」


 ヒーナックがたずねるとカオリは答える。


「先日に向こうであたしのしたことが原因で王立学園の生徒の行方不明の騒ぎが起きているって話になると」

「いても立ってもいられない」

「まぜっかえすな。自分で騒ぎのタネをまいたのなら、自分で刈り取るのがスジ」

「姉さんは、向こうで何をしたのさ」

「なめたガキをちょっとかわいがっただけ」


 カオリは平然と笑みを浮かべる。

 ヒーナックは野蛮なかわいがりを受けた者に同情した。


「まず、騒ぎは起きないようにする。騒ぎが起きても丸くおさめる。暴力はよくないって思う」

「でも、ボコるのは楽しいね?」

「ムチャクチャ言っている」

「冗談よ。ただ、あたしのせいで騒ぎが起きたって、学校に行ってからウダウダ言われるのはシャクな気がする。しょっぱなから、あたしがトラブルメーカーっていう話になるのも嫌じゃん?」


 そのようにカオリは主張する。

 しかし、冷静に考えて、姉が学校で問題児になることは避けられないとヒーナックは感じた。


「目立たないように大人しくしていた方がいいよ、できるだけ。なお、【普通が一番】踊りは絶対に禁止。わりと本気で正気を疑われるから」


 カオリからの提案。


「あたしは他人の影にもぐりこむ闇属性の魔法が使える。あんたが解放区に行くときに、あんたの影にもぐりこませてもらいたい」


 闇魔法とは色々なことができるものだ、とヒーナックは感心した。

 しかし、自分の影の中に姉が入ってくるというのはお断りである。


「そういうことならば、つつしんでお断りさせていただきます」


 よもや断られるとカオリは思っていなかったらしく目を白黒させる。


「どうして断る?」

「自分の影の中に人が入ってくるって、ちょっと気持ち悪い」


 とりあえずヒーナックは嘘をつく必要はなく正直に答えた。

 カオリは言う。


「他人が滅多にしない経験?」

「その手の経験って、したからといって特に自慢にならないよ」

「ひと夏の特別な経験」

「いくら言葉を飾ってみたところでボクの気持ちは動きません」

「うー」


 ヒーナックは言った。


「魅力を感じない」


 カオリは食い下がる。


「話のタネになるよ」


 いや、とヒーナックは肩をすくめた。


「そういう話を喜んで聞いてれそうな人をちょっと思いあたりませんよ。何と言うか、需要がないのです。面白くないから」


 カオリが手を挙げる。

 

「あたしは面白いって思うけど?」


 しつこい。

 ヒーナックは丁寧に説明した。


「そんなの、やる側がいくら面白いと主張したところで、現実問題として客を引っ張ることができる計算が立たないのならば、それほど面白い話じゃないっていうことです」

「でも、 あたしみたいな人が他にもいるかも」

「カオリみたいな人は珍しい」

「そうかな?」

「趣味が偏りすぎ」

「待て」

「個人的に思うんだけど、人が影の中から出てくるって、映像として魅力がない。見ている側に伝わらない、映像面で」

「はあ」

「光の当たり方次第で出てくる角度ず過ぎられるでしょ?」

「見せ方次第じゃない、そーゆーの?」

「ならば、見せ方のきちんとした演出のアイデアを用意してきてください。今のところ、商業的価値を感きてじません」


 冷ややかな通告。

 カオリはむっとした。


「商業的価値ってね、どんなに時代(とき)が流れても、人にとって大切なものがあるんだ」


 ヒーナックは批判する。


「そういう抽象論に逃げるのは安易だと思う。いや、抽象論がダメっていうのでなく、相手と意見の一致する点ほ探ろうという姿勢がないのがダメ」


 カオリは溜め息をついた。


「それはあたしの個性。ついに個性尊重の時代が来た」


 個性尊重の時代。

 あまりにも言うことがマニュアルどおりすぎてヒーナックはあきれた。


「ろくに理由を示さず個性尊重とか言うのは陳腐すぎ」


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