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040 不幸中の幸いなのか多少の時間的猶予が与えられる

 囚われたルー・サ・ナドー。

 カオリ・ゲッカーともめたグループであれば話は早かったがそうではない。

 先日の騒ぎと微妙な関係と言えば、王立学園の生徒が解放区をうろついているという話が解放区に広まったったぐらい。

 名門の王立学園の女生徒をつかまえて後の計画はろくに用意されていない。

 流行に乗ってみる。

 みんなにちやほやされるのというのはわかる。

 それが限界である。

 流行するものには、それなりに理由があるものだ。

 しかし、その理由までも知ろうとするほどに彼らは流行が 好きというわけでもヒマというわけでもなかった。

 流行に乗っているという安心感が好きなだけ。

 もともとのカタチに不満で解放区にたどりついたもののカタチなしに生きるのは不安定すぎて新しいカタチを求める。

 運がよければ新しい流れをつかむ革新者。

 下手をすれば自分でも自分がわからなくなり、ただ、わかりやすい力を振るうことで現在の自分を確認するだの社会にとっての害悪になる(人間は神の子であり、利己的な欲求が満足されれば自然と利他的な欲求に向かうとJSミルは説いた。JSミル本人は聖者のような生き方をしたと伝えられるが、そうならない者も多いことも歴史は示す)。

 カタチを破る陽の者と呼まばれる連中がたまたま非合法の世界に足を踏み入れた。

 そして、非合法の世界でネチネチ分析して自分のカタチをさぐるといった種類のインケンさは持ち合わせていなかった。

 いざという時の統制が取れない。

 運悪く、そういう連中にルーは引っ張られたのである。


   *  *

 

 どことわからない暗い一室てけルーは、昔の教室でのことの夢を見た。 

 解放区を通うマドリ先輩からのアドバイス。

 マドリは学生時代から、すでに聖なる犬の使いとして選ばれた鬼っ子だ。

 ご承知のとおり、解放区では色んなことが起きてしまう。

 厳しい王立学校 の規則を破って解放区に踏み入れた者が犬と出会って一足飛びに社会階層が上昇してしまうというようなこともある。

 そんな馬鹿なことが起きるから、学生生活に行きづまりを感じたルーのような学生が解放区に行ってしまうのだ。

 ルーの夢の中て、マドリ先輩は説教する。


「とにかく、逃げる場所の見当ぐらいはつけておきなさいよ。いつもいつも逃げ切れるとは限らないけどね」


 長く解放区を出入りした者の言うことだ。

 偉そうであるが逃げ道の確保は一理あるな、とルーは感じた。


「ありがと。わかりました」


 マドリは首しい口調で言う。


「後は自力で何とかしなさいよ。みんな自己責任!

 最後は、何でもアリのリアルファイトだけ。

 禁止されたところに行って危ない目にあったら、上に『助けてくれ』って泣きわめく甘ちゃんがいるけど、約束を破るような時点で互いの関係は千年前に切れていると思いなさい」


 千年前。

 先輩の厳しさをルーはあまり好きになれなかった。 


「冷たい」


 冷たいんじゃない、とマドリは言った。


「いつでも約束を破るようなイキモノが人間アツカイしてもらえるという話の方がよほどにわけのわからない」


 考え方の違い。


 ━━人間アツカイしてもらえるという話の方がよほどにわけのわからない━━


 その言葉の意味がルーにはよくわからなかった。


「え?」


 マドリの説明。


「昔の人は言いました。

 ┅┅法を犯すものは獣としてあつかえ。

 ┅┅法を犯すものは戦争状態に入ったとみろ

 ということ。

 自分から馬鹿なことをしておいて後始末は他人まかせなんて、そんな甘い話は認めない。気分が悪い。少なくとも、あたしは目の色が白くなるまで潰す側に回る」


 どうやら、この世界にもロックやルソーのようなことを言う者がいたらしい。

 もちろん、一部に事後法も認める法に関する対話を重視する点において、大陸的な法治主義とは異なる。

 しかし、精神に比べて生命を軽視して対話できない者を殺戮する、残酷なジャコビニズムにつながりかねない近代科学的合理精神を秘める。

 マドリぱ続けた。


「文明国・半文明国・未開国。そういうことを言うのは差別だって評する手合いがいるけど、何だかなあ・・・ 国というか文化の問題だよ。

 そもそも【約束】という言葉が最初からない文化もある。

 約束=友情と呼ぶ文化。

 正しいところはあるヨ。

 しかし、欠けている。

 社会への視点というかな?

 約束を守るヤツを小利口ぶって馬鹿にする奴らは、無理して約束を守ろうとする文化からクズとして排除される。

 まったく明るい話じゃないけど、いったん相手の跳ねたことを馬鹿にしたのなら、どんな理屈をこねても、カエシをもらうのはアタリマエ。

 戦争上等だヨ。

 コロシの経験のないガキほど他人になめた口をきく。

 家に悪いやつが入ってきたら一目散に逃げたようのが、こちらが一人で前に出て処分すると、『手加減、手加減、お前ほどの腕があれば手加減できたはず』とか泣きわめく。

 知らんよ、そういうの。

 もうすぐ墓場に消える年寄りが『近頃の若い者は頼りない』とか舌をまわすが、そういう奴は若い頃に自分の気合いをみせて跳ねたことがない。

 いつの時代にもホンモノはいる。

 経験者ならば会えばコイツはホンモノでこいつは使えないっていうのは細かいことぬきで判断がつく。

 うまくは言えないけど、心とつながらないようなのは駄目。

 自分が自分であろうとしない連中を相手にするなら、約束もへったくれも何もない。

 五秒前の自分は今の自分と違うって、向こうが言っているのだから、いくら話をしてみたところで、わけのわかるものではない。

 どう言えばいいのか難しいけど、社会に対して自由  を求めるのであれば社会にわかりやすく自分は自分であると伝える義務がある。

 わかりやすい自分を持つこと。

 結局のところ、社会は何でもできる全能神ではない。

 自分は自分であると伝えたい相手に伝わるようにする誠意は大切だよ。

 義務教育とか、標準語とかも大切。

 そういうの、差別とか言っているような連中は話にならない」


 先輩の話は長い。

 ルーはうんざりとした。


「はあ・・・」


 マトリの断言。


「対話が通じないというのなら、最後は暴力」

「ぼ、暴力・・・?」


 ルーは驚く。

 平然とマトリは語る。


「いつもトラブルのタネになっているようなものこそ、馬鹿にでもわかりやすい。それが真の解決につながるかどうか別の話にしてネ」

「野蛮ですよ、先輩」

「野蛮?」


 マドリの考え方にルーは抵抗した。


「それは、つまり・・・ 弱いものいじめじゃないですか」


 違う、とマドリは笑った。


「こっちが勝つとも限らない。日ごろから備えていれば、ちょっと有利かなってぐらいヨ」

「えーと・・・」

「まあ、解放区は何でもアリだから若い女の子がうろちょろするならヤバイことは当然にあるし、気合いいれて備えようねってこと」

   *  *


 自分の犬まで手に入れて冒険者になったマドリ先輩。

 ちょっと昔の夢。


「どうして、こんな夢を・・・?」


 不幸中の幸いというか、ルー・サ・ナド―は相当に容姿に恵まれて生まれた。

 彼女をさらった連中が彼女に飽きて処分のことを考えるまで多少の時間的猶予が与えられていた。

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