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039 弱い者の居場所を解放区では誰も用意してくれない

 王立学園のルーが解放区で行方不明。

 ヒーナックはあかの他人という顔はできない。

 姉のカオリが顔を隠したヨロイ姿で解放区を歩いていたところをからまれて問答無用にしばきまわしたことが原因ではないか?

 そのようにヒーナックはふんでいた。

 からんだ側もいい災難である。

 変な恰好をしているのはくらでもいる解放区なのに危険なイキモノにからんでしまった。

 もちろん解放区での喧嘩はやったもの勝ち。

 ただ、カオリが王立学園の編入試験を受けていると口にしたというのであり、相手に背景がある場合には、その背景も面子のために動くようなことがある。

 下の者の心の安定のために上は動かざるを得ないということがある、

 どこの世界の組織も同じ。

 いくら上が利巧でも下が愚かであれば、わかりやすい力を見せねばならない。

 何が何でも下ををかばう部族主義。

 日本は一四世紀頃に部族主義を卒業した者が増えていったが、令和の世にスクールカーストやヒエラルキーとか言って喜んでいるのは平安時代からの生き残りであろう。

 もちろん、カタチを悪と断言しない。

 決められたカタチを演繹法的に守れば(計画主義)、みんなの心の安定をもたらす。

 ただ、それ全てというわけでなく、カタチに固執すれば見えなくなることも多い。

 アブダクションでカタチを広げれば(功利主義)どれが正しいのか混乱

 その棍人を収束させるために帰納的にどんな場合に何が正しいのか自分たちの新しいカタチを考える(科学主義)というのは時間と手間が掛かる。

 正しい答えがでるまで動かないというのでは目の前の多数の生命を見殺しにする。

 このカタチが正しいとみんなに同意してもらえる状況を積極的につくりだそうとする(社会改良主義)は、物理的にわかりやす変革の力を求めるために犠牲も大きい。

 いかなる主義にも得失はある。

 その得失を意識しない者は社会にとって善も悪もない、

 砂。

 ただ、わかりやすい力があれば流される。

 その行動形式は予測しやすい、

 事件にルーは巻き込まれた可能性があった。


   *  *


 カオリが声をあげる。


「王立学園の生徒が解放区でさらわれた?」


 ヒーナックは言う。


「解放区でカオリお姉さまがゴロをまいたからね、そのとき、王立学園の生徒であることをにおわさなかった?」


 それは、とカオリは溜め息をつく。


「編入試験の結果が出るまで、コロシは縁起かつぎでひかえているって言ったかも」


 ヒーナックはうなずく。


「なるほどね。そこから漏れた」


 カオリの質問。


「解放区の者たちがゲッカー侯爵家ともめるわけ?」


 ヒーナックの解説。


「学校は生徒が解放区に行くことを禁じている。そして、今の解放区の領主は、あまり取り締まりに熱心ではない」


 カオリが言う。


「あたしのやったことが、今回にルーってコがさらわれたってこときく係あるの?」


 わからない、とヒーナックは正直に言った。


「可能性としては、ある」

「一人でいるところをやられたって、そいつは不用心ね」


 カオリですら、用心のために従者としてゼニハーをつけた。

 ゼニハーは冒険者学校の出身であり、解放区のことを多少はわかる。

 解放区に行った時にカオリを後ろから蹴った男は完紀全に無形を消していた。

 悔しいが解放区の暴力のレベルは認。自分から。める。

 ヒーナックの論評。


「カンの鋭いコで危ない危険異があったらすぐに姿を消すけど、ちょっとマークされて、それが通用しなければ終わり・・・」

 カオリは古いことわざを口にした。


「弱者死すべし、邪悪断つべし」


 少し辟易としたのか、ヒーナックは軽く手を広げた。


「なかなか頭の回転が速いコだったよ。自分から危険に近づかないって思うけど」

「けど?」

「危険の方から近づいてきてら、どうにもこうにも」


 カオリは口をつぐみ、考える。


「だいたいわかった」

 

 ヒーナックが聞く。


「わかったって、何を?」


「あまり治安のよくないところを一人で歩ききまわるなら、それなりのとんがった奴でなければ話にならない。長くいれば、よほど幸運でないかぎり、だいたい痛い目にあって終わる」


 カオリの言うことは、常識的だった。

 解放区に残るみんなの顏つきはどこか暗い。

 何かあるということに備えている。

 備えていなければ食い物にされても仕方ない。

 公の管理の行き届かない場所は自由でエキサイティング。

 しかし、その分に危険だ。

 弱い者の居場所を解放区では誰も用意してくれない。

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