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038 ホラー映画におけるスポンサーの影響力について語る

 王立学園の編入試験の合格通知が王都のゲッカー公爵家の公邸に届いた。

 合格である。

 謙虚で純真無垢とAIが認定するカオリ・ゲッカーは喜んだ。


「まさか公爵家の者を落とすなんてしないと思っていたけどさ。合格通知。来ると安心する」


 カタチが大切。

 心から思う。


「こいつは額縁にでもいれて飾っとこうかな?」


 やれやれ、と弟のヒーナックは溜め息をつく。

 それを聞きつけたカオリは言う。


「ちょっとはあんたも喜びなさいヨ」

 

 ヒーナックは言った。


「冒険者志望とか将来は護衛になりますとか言っておけば、礼儀作法があまり問われないというのは、試験制度の見直しがちょっと必要かも」


 カオリの意見。


「とりあえず合格しないと話にならないからネ。

 ゲームの世界では悪役令嬢になるはずってさ、まず学校に入学できないというのでは何もはじまらないよ」


 ヒーナックは言う。


「不合格が続いて、ヒロインが来ても悪役令嬢が入学できていないという悪役って新しいよね?」


 カオリはまゆをしかめた。


「その手の新しさは不要。

 最後には学校に火をつけるってオチになりそう。なぜ、このあたしを認めないんだって」

 

 悲惨なオチだ、とヒーナックは感想を述べる。


「礼儀作法とかは細かくやったら、いくらでも受験生を落とせそう」


 カオリは言った。


「落とすための試験だ、それ」


 ふヒーナックは話にのってきた。゛

「あるねえ、世の中には、そんな試験」


 調子に乗ってカオリは続けた。


「試験落ちたらボロボロ。ヒロインと街ですれ違う。もちろん誰かわからない。まだ学校に入れていないから知り合う機会がないから」 


 でもって、とヒーナックは後をうけた。


「ヒロインは学校の制服姿」

「え?」

「光の魔法とかあって試験免除。そこは聖女さまだから」

「聖女さまは試験免除?」

「汚いさすが聖女きたない」

「聖女がみんなのヘイトかってどうするのよ?」

「意外性をねらう」

「いらない、その意外性」

「憎まれて観客をヒートさせることで、やられる時に盛り上げる」

「演出としてはわかるけどね。あんまりやりすぎると演出する側の顏が見えて、見る側は素直に盛り上がることのできない」

 

 そうカオリが指摘すると、ヒーナックは反論した。


「演出する側に『がんばれー』とか騒いで泣けますよ、お姉さま」


 カオリは溜め息をついた。


「そういう泣き方ってあるけどね、ホラー映画」


 うんうん、とヒーナックはうなずく。


「泣ける映画」


 いや、泣けるけどサ、とカオリは言う。


「もうちょっと予算があれば、みんな、マシなことができたかもって思ったりするのよね、見ていて。えーい、みんな貧乏が悪い」


 色々とアレかと思いたる作品はあるけどサ、とヒーナックは述べる。


「なかなか制作側がすべて悪いとは言えないって思う。お金がなければ、やれることの限度がどうしてもできてくるから」


 まあね、とカオリは肯定した。


「予算がなくて、泣く泣くカットするシーンってあるよね?」


 ヒーナックはうなずいた。


「そのシーンが削られた結果、原作にあった別の後のシーンで泣き所が意味不明になる」

「ほ、ホラーだ、ありがち」

「でもって、金だしてくれるスポンサーが原作のその場面をどうしても見たいという理由で、後のシーンだけカットできない。

 できあがった話は全体を通してみればメチャクチャになっていて、金出したスポンサーから怒られるという悲劇」

「最悪」

「金さえ集めればいいものができると言うのはズレているけど、まず、金が集まらない」

「まあ、ね」

「他人のやることに簡単にケチをつけるようなのは信用しない方ががいいと思うネ。文句があるなら自分でやれっていう話に」


 カオリからの注意。


「うーん、それは極論」

「極論かな?」


 ヒーナックに対してカオリは言う。


「世の中やってみなければ失敗するどうかってわからないことも多いしね。

 きっと失敗するだろうと予測できても絶対に失敗するとは断言できないものよ。結果的になぜか成功してしまうことがあるし」

「まあ、いくら何でもやらなくてもわかるだろうって失敗が目につくね」

「追い詰められるのよ、まわりから。結局、カネも時間も余裕のない中で、追い詰められて、どーにでもなれどーにでもなれって、やっちゃうの」

「どーにでもなれどーにでもなれって魔法の呪文?」

「破滅へのカウントダウン。たいていの場合はね」

「やめておけばいいのに」


 カオリは力強く言った。


「それがまれに成功することもあるんだから。世の中はわからない」

「うわあ」

「どうせ失敗するのなら、万が一の可能性に賭けてやろうという心意気よ。わかるね?」

「わかりたくない」

「大体においてカネも時間も余裕がないんだもの。じり貧よりも玉砕」

「それ、ダメ」

「サメ映画とゾンビ映画は夢の残骸でいっぱい。

 金がなくても参入できるという話は、金がないのにも限度がある。下手したら、数少ないスポンサーの影響力が強まり、その口出しがトラブルのもとになるよ」

「へえ」


 反応の薄い弟に対して、ホラー映画におけるスポンサーの恐ろしさをカオリは語った。


「ビールのんでいたらゾンビに噛まれてもゾンビにならないって映画があってサ、最後はビールの広告で終わるの、インパクトあった。インパクトだけは認める」

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