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036 自分の判断能力に人々は自信を失っている

 異界とのつながりが生じる解放区には混沌があった。

 アブダクション。

 ブレインストーミング。

 KJ法。

 これまでと違う新しいことをやろうという試みは、先例を研究しまくって話をまとめようとする者がいなければ、たいてい失敗に終わるように感じる(世の中に即失敗に帰結シする罠は実に多く、先礼研究である程度は避けられる)。

 しかし、これまでの先例と同じことを続けていれば、自分は幸運と信じる者でない限り、先に希望は見えない。


 ┅┅ついていない。


 ルー・セ・ナド―はそう感じていた。

 わかりやすく安定したカタチを重視する階級社会。

 ルーは貴族の家に生まれなかった。

 それがほとんど全ての原因と言ってもいい。

 階級社会でうまれながらに同じことをやり続ければ特化のメリットが働くという理屈。

 しかし、分業によって他から仕事を評価される機会を失って、仕事の質が全体の意図にあわず破綻しているしいう危険もある。よう

 絶対悪と断言しないけれども、階級社会にどのような欠点があるのか、見当はつく。

 対話不能の情報の断絶による非効率。

 校内においても階級社会の壁は存在し、ルーは相当に養子に恵まれた少女だったが、しょせん商家の出ということで、貴族階級の男子生徒たちとまともなおつきあいは望みがたかった。

 仕方ない? 

 階級社会というものは、そういうものだ。

 固定された階級というものは、民の安心そのものであり、これに逆らうのは難しい。

 家格に見合った結婚をするというのがこの時代の常識だったのだ。

 しかし、だからといってそれに無条件で従うことに、ルーは納得できなかった。

 ルーは成績が良かったから、王立学院に特待生として入学できたし、そこでは彼女のような生徒を応援してくれる制度もあったのだ。

 もしも、爵位持ちの貴族の家に生まれていたら、彼女の容姿の良さはもう少し武器になったであろう。

 やるせない閉塞感がルーのような少女を解放区に向かわせる。


   *  *


「今の自分が楽しければいい」


 それはルーの本音だ。

 けれど何が楽しいことなのか、そもそも自分がわからない。

 解放区に転がっている混沌、快楽と狂気が彼女の歩むべき道を示してくれる気がした。

 自分探しを嗤うまい。

 若い頃というのは、まわりにまともな大人がいなければ、企業舎弟を相手に度胸をみせて「わしの実子の義兄弟にならんか」と声をかけられたり、外国の大統領の義父に気に入られて毎月に別荘にひっぱられたり、色々と迷走もある時期だ。


「何か面白いことないかな?」


 女子がスカートのすそを引きずらず歩ける王立学園のブリーかっこスカートの制服で、ルーは解放区内を歩いていた。

 いつのまにか彼女を前後はさむように二人の男が歩いていた。

 違和感。

 アヤシイと勘づいただけでルーからすれば上出来。

 彼女が解放区の住人として持ちあわせてコ゛りいないかいのは【危険かもしれないからとりあえずやっておく】という攻撃性であろう。


「ちょっと、あなたたち、何か用?」


 ルーが足を止くをめて振り向くと、背後の男は服の上にフード付きのマントをまとっていた。

 そして、右手に異様な杖を持っている。


「王立学院の生徒だな?」


 制服を着ている。

 違うとルーは否定できなかった。

 うなずく。


「ええ」


 次の瞬間、後頭部に鈍痛が走った。

 うづくまるルーを男たちは二人がかりで滅多打ちにした。


「ヤメテヤメテ」


 自分が何をされたのかわからなかった。

 解放区の洗礼?

 身の凍るような恐怖に思考が飛ぶ。

 ろくに公的な機関の動かない地域。

 決して人々の心が冷たいわけはない。

 外観では判断しないだけ。

 ルッキズムの否定。

 事情のわからないままに助けに入ると、助けられた側が悪党だったなんていうこともある。

 人を助けるに後々のトラブルは考えるべき。氏 

 多様性バンザイ。

 自分の判断能力に人々は自信を失っている。

 人助けは後で何があるかわからない。

 事情のよくわからないくせに飛び込んでくるようなトンバチな暴力愛好家もいるが、そんなのが好結果につながる保証はない。

 余計な自己責任を問われるのがイヤならば何も見なかったことにするがスマートであろう。


「タスケテ」


 ルーの懇願は無視された。

 ぼこぼこぼこぼこ。

 彼女はその場にうずくまった。

 ぐったりとなって動かなくなった彼女の身体を二人の男たちは手早く回収して運んだ。


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