035 死ぬときには死ぬだろうと感じてしまう
カオリとゼニハーが【05の居場所】に到着した。
出番の時間ではないヒーナックとモカさんが出迎える。
モカさんは言う。
「別に騒ぎになってはいない。鎧変の変な二人組に声をかけたチンピラがは軽くボコられたという話ぐらいかな」
ヒーナックの要望。
「そういう変な格好でこないでよ」
カオリは言う。
「こちらも編入試験の結果待ちだし、ねえ。正体は隠しているの。それでも弟が解放区で何をしているのかは刺殺しておきたい」
「どうして?」
「あんたが馬鹿やって、あたしの評価が落ちるようなことがあればイヤだ」
「ボクは品行方正ですよ?」
と、ヒーナックは憮然とする。
カオリは言う。
「あんたが学校で禁止されているようなトコロに通うなんて」゛
「ボクは許可を学校からとっています」
「ここに来るときに変な奴らにからまれた」
「そんな変な格好しているからね」
ご愁傷様、とヒーナックは肩をすくめた、
仕方ないじゃん、とカオリは言う。
「あたしは正式にはここに来たらまずい立場だし、正体を隠さなければいけない。本当、なれない格好していたら、いきなり後ろから蹴られた」
すみませんね、ゼニハは恐縮する。
「二人いたんだから、あたしが後ろをケアしておくべきでした」
ヒーナックの意見。
「最初から来ないという選択肢もあったのでは?」
「どうも、目ぇ放していると何されるかわからない予感がした」
カオリは鬼姉として数年前にゲッカー公爵家から一度は追放されている。
さわやかにヒーナックは笑った。
「うたがいすぎだよ」
「どうだか?」
「証拠でもあるの?」
「ないけど、証拠とか言いだすような弟は疑った方がいい」
と、カオリ。
モカさんは目を丸くする。
「卓見だな」
カオリは肩をすくめた。
「弟には一度やられているし、二度もしてやられたら笑い者」
だろうな、とモカさんぱ言う。
「注意を払うのは身近な人間だよ。ある国で調べてもると、屋内の殺人事件の犯人のほとんどが家族だったそうだ」
「へえ」
「他人の家に押し入って殺すのはハードルが高い。ターゲットが留守ならば、どうしようもない」
「空振り」
「家に行ったらいない。秘密の愛人さんのところにいた」
「あらま」
「すると、後で奥さんに刺されて死亡。救われないオチ。そういうこともあるから、身近にいる者には仲良くするべきだと思う」
うんうん、とヒーナックはしたり顔でうなずく。
「何かあった時のために警戒するのはいいけど、まず、そういうことのないように互いの信頼関係をつくらなてといけないって思います」
「言ったもの勝ちね、それ」
と、カオリ。
機会を目ざとく逃さないヒーナックは、カオリが来た後に送られている間にゲッカー公爵家の正式な継承権を手に入れている。
モカさんは言う。
「まあ、いいさ。ヒー防はここで音楽関係のことを真面目にやっているだけ。叩いてもホコリは出ないヨ」
カオリは表情を崩さずに言った。
「別にそこまで疑っているわけではないけど、念のため」
モカさんは言う。
「今日、お姉さんは何しにきたの?」
カオリは言う。
「弟がここで何をしているのかを知りたかったの」
モカさんは軽く肩をすくめた。
「まじめなものサ。まじめすぎるくらい」
「まじめすぎる?」
「俺は、もう少し崩してもいいと思うがね」
ヒーナックは言う。
「それ、【鮮やかな残像】の話? あれはこちらがスクエアーにやるから世界の閉塞感を演出できるって思いますヨ」
モカさんの反論。
「閉じてやろうと意気込み過ぎると、囲いのどこかに大きな穴が生まれる。適度にスキをつくってみせた方がいい」
うーん、とヒーナックはうなる。
「ちょい待ってよ。そこまでの表現を客が求めているかどうか」
「そこまでの表現って?」
「リアルじゃなくて普通のお客さんがリアルに感じるものを提供すればいいんじゃない?
「まあな」
「その子供が大きくなった時、『あの遊園地は楽しかった』って思い出してくれるならいいでしょ?」
「言いたいことはわかる。でも、子どもだましに走るのも、抵抗あるな」
「広く届けるためには、どこかでわりきる必要があるのでは?」
「どこかでわりきるにしても、まだ迷いたいね、みっともなくサ」
「へー」
「簡単に切り捨てられるなら切り捨てられる連中が寂しいだろ?」
「寂しいですか?」
モカさんは答えた。
「俺はそう思うね」
ヒーナックは小さく舌を出す。
「自分をそんな大きな意識の中に置くのは、ちょっと疲れる。こっちもいつ死ぬかわからないのにね」
「死ぬ?」
「そりゃ死ぬときには簡単に死にますヨ」
前世においてヒーナックは想定外のヘリコプター墜落事故であっさり死んでいる。




