033 解放区にはろくでもない馬鹿が集まる
この【05の居場所】のbackingはよく話す。
互いの意思確認に気を使っている。
ベース担当のコリ・アシオトネが入ってきた 。
無性というよりも、あからさまな機械人形でる。
全身は白い金属におおわれて、ところどころきに黒のゴムカバーがついている。
異界から呼ばれた客人。
その異形。
エリア王国において解放区でしか通用しなかったであろう。
顔を見せるだけでオーディエンスへの見世物になるということもあるが、彼のベースはリズム隊として信用できる。
ドラムのモカさんが熱くなって暴走しかけると巧みに曲を他来の流れに戻す。
そういう役回り。
* *
コリはソルやウヅキを連れて、【05の居場所】におけるヒーナックやモカさんの会話にまざってきた。
ボーガルはウヅキ、メインギターはソル、サブギターはヒーナック、ベースはコリ、ドラムはモカ。
そんなのが、今のところの編成か。
キーボードはいない。
探してはいるが、なかなか噛み合わない。
世の中にはそういうこともある。
コリは言う。
「モカさん、今日の【鮮やかな残像】はちょっとドラム刻みすぎじゃない? 何とか、みんな合わせたけど事前の打ち合わせが欲しい」
平然とモカさんは言う。
「実際に客の前でやると場の空気ってもるがあるぜ。みんながついてこれるのなら、仕掛けてみようかな、と思うこともあるサ。無理を強いた気はないよ」
コリはため息をつく。
「そーゆーいたずらもあるって話になると、みんな気楽に流せないだろ」
モカさんの意見。
「ナマで演奏する緊張感。何かあるっていう感覚をもっていてほしい」
気持ちはわかるけど、とコリは言う。
「世の中はむずかしい。どうせ、何かある。計算どおりにうまくいかない。トラブルを自分からもちこむのはいただけない」
ちょっとね、とモカさんは肩をすくめる。
「ピリっとしてほしいんだよね、あまりゆるゆるだと、本当に何かあった時にまるで対応できなくなる。世の中は何が起きるかわからないって気持ちで対処することが大事と思うよ」
やれやれ、とコリは溜め息をつく。
「トラブルはね、あっちゃ困るんだよ、基本は。ある程度のトラブルは呑み込んで恰好つけられる面子は欲しいけど。
ありきたりの話かな? ソルもヒー防もまだ若いし、ウヅキさんはお客さんだ、こちらからしてみれば。あんくまり要求をあげたくない」
その言葉を聞いてウヅキが口を開いた。
「そういう要求はあわせてもいいですよ。こちらだって、ただではお呼ばれしていないから」
異世界から呼ばれた歌い手は左目にカメラを内蔵している。
人間の少女の姿をしているが、人間かどうか疑わしい。
今は【05の居場所】に歌い手として来ている。
期待された仕事はこなしてみせるという意地とプライドを口にする。
「トラブルが本当にあって、対処できないことになったら、しょうがないよ。また取り返せばいい」
ソルは話をそらすように言う。
「前向きなご発言ですな」
「若い」
ヒーナックの発言に、モカさんはつっこむ。
「何を年寄りじみたことを言っているんだよ」
外見はともかく前世の記憶があるヒーナック・ゲッカーはそれなりに世の中のことがわかっているつもりだ。
「まず失敗のないという話が次につながることも多いし」
ソルはそう話を変える。
「それはそうだけど、失敗したくないからって挑戦のレベルを下げ過ぎるというのもさ、かっこ悪いしねえ」
「うん」
「恰好よくいたい」
モカさんは笑った。
「おいおい、無茶はふってねえつもりだ」
ウヅキは言う。
「いざとなれば、あたしが一人でカタをつけるから」
ビー、とモカさんは口笛を吹いた。
「言うねえ」
ウヅキは肩をすくめた。
「それぐらいの気がなければ、解放区に呼ばれないって、思わない?」
「まあな」
と、モカさん。
解放区は暗い場所だ。
少し気を締めることを忘れるとたちまち自分がなくなってしまう。
ろくでもない馬鹿があつまってくるとボヤくのはかまわない。
しかし、そういうものだと納得できてしまう時点で、自分もろくでもない馬鹿の一人なのだろうと感じてしまう。




