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030 絶対の正解はわからないまま自分の答えをさぐる

 エリア王国には解放区アジールと呼ぶべき 場所が王都にある。

 異界とつながった場所。

 来訪者は一定の区域の外を出ることはろろ解な魔力によってきない。

 そんな場所を治めている聖犬使がクローだ。

 解放区からもたのらされる奇妙な文物は、王都に新しい風を吹き込む。

 まともな捜査機関はさして動かない。

 言えなれば魔界都市・新宿よ。

 新奇の刺激求めて人ぎたへ寄せる。

 深くはまれば生きて出られるような保証はない。

 解放区で死ねば基本的に死に損。

 そういう場所だった。


   *  *


 王立学園における上流階級出身の生徒たちも何せ若い。

 刺激を求めて解放区に通う者たちがいた。

 規制教育に悩む学生たちにとって解放区は学園生活の中で心の癒しになると説く学者もいた。 

 大人社会の監視の届かない解放区はエキサイティングであるが危険だ。

 よいことがあるかどうかは運次第。

 長くその場に踏みとどまるかどうかは心の餓えの量で決まるのかもしれない。

 黙っていても良いことがあってそれで十分に満足できるというのなら、別に解放区に足を踏 みいれる必要はないだろう。

 リスクは 相当あるゾという大人たちの注意を聞き流すのは、何も知らない陽気な流行好きか、街のトラブルを何とかできると思い込む自信家?

 ラジオの深夜放送の常連であったヒーナックは解放区にまでギターを弾きに通っていた。

 幸か不幸かわからないがわからないが、ヒーナック・ゲッカーには前世の記憶があり、見た目よりも世慣れている。

 現世の姉はカオリ・ゲッカーということがあって、多少の荒事は平気だった。

 そんなこんなで、ヒーナックは【ニノミヤ】のラジオネームで【05の居場所】という奇妙な名前の酒場を居場所にしていた。


  us05コリ・アシオトネは紫の髪をした性別不明の器械人形であり、聖犬使クロー・アシオトネが専属Pをつとめる。

 白の身体のところどころに黒が走るメタリックな機械っぽい外形。

 担当は一応ボーカル、だいたい曲によってはリズムギターやベース。

 リズム隊として丁寧に正確にコードを示そうとする。


(ソリッドにすぎるのでは?)


 そうヒーナックは感じることもあった。

 しかし、そういうメンバーがいなければバンドの空中分解もありうる理屈はわかる。


 コリ・アシオトを中心にするバンドの【万舟】に、ヒーナックはヘルプのギターとして入った。

 この【万舟】のギターはソル・タイヨーネである。

 異界から来た赤毛の少年。

 年のころはヒーナックと同じぐらいか。

 あまり無理はしない穏やかな性質で話は合う。キ

 店内でソルぱ言う。


「今回の新曲のボーカルさん、ウヅキさん、こちらにあわせてくるね」

 

 ヒーナックは応じる。


「こちらも二人がかりでじたばたしているからウヅキさんだって気を使うっしょ」


 ソルはボヤく。


「テンポ早くないけど二音弾きの連続はきつい」

 

 ヒーナックの感想。


「だからボクがヘルプに入っているんでしょ。音をあわせて協和音の連続って安易すぎるかも。せっかくゲストに来ていただいたウヅキさんを立てる方向になるのはやむえないけどネ。もうちょい聴かせどころを際立たたせるために不協和音を入れても」


 おいおい、とソルは目を丸くした。


「そいつは冒険だなあ、ヒー防」


 冒険かな、とヒーナックは思う。


「何も悪魔の音程を連続させようってわけじゃないけど、引っかかり、もっとフックを入れたいと感じることもあるわけ」


 フックね、とソルは少し首をひねる、


「言いたいことはけっこうわかるけど、そのあたりまで主役のウヅキさん次第かな。どこまで深く歌の物語に入ってくれるかどうかでしょ」


 ヒーナックは意見する。


「向こうさんはこちらに合わせるような曲を歌ってくれるから助かるけど。というか、お互いにまだ手探り状態みたいな?」

 

 まーね、とソルは肩をすくめる。


「初顔あわせだし、互いに遠慮しちゃうよな」

「ウヅキさんがもっと意見だしてくれたら、少しは頑張って、こちらも合わせたいネ」


 と、ヒーナック。

 前髪に隠した左目にカメラを仕込んでいるというウヅキは店のマスターが【大切な歌い手】と呼んできた。

 異世界人というか人間かどうかも明らかではない。

 見た目はヒーナックやソルよりも少し年上の人間の女の子に見える。

 ただ、いいステージにしたいという気持ちは本当だろう。

 それだけで十分。

 後の細かいことはただのノイズみたいなものに思える。 

 ソルは言う。


「いや、ちょっとウヅキさんにしてもこちらの腕の様子見でしょ。どこまで要望を出せるかどうかっていうとこ。互いの距離を見切らないと、駄目よ。あまり下手に突っ込むと関係がバラバラになって空気が壊れるというか」


 うーん、とヒーナックはうなる。


「慎重にさりげなく距離を詰める。どーでもいいような会話でもいいから、話のカケラから、ちょいずつでも向こうの好みを拾っていくとか」


 細かいねえ、とソルは苦笑した。


「モカさんはドラムにオカズを混ぜて探っているようだけど」


 バンドのドラムのカモは通称モカさん。

 モヒカンの半肉質の巨漢。

 はあ、とヒーナックは溜め息をついた。


「そーゆーのって、相手の芸の幅はわかるけど、何をやりたいかが知りたいのよ、こちらとしてはサ」

「芸の幅?」

「そりゃモカさんみたいな考え方もわかるけど、ウヅキさんが今何をやりたいのかを知りたいよ。うまく歌い手さんを乗せるのが今回の僕たちのお仕事でしょ?」

「なるほど」


 ソルは考え込んだ。


   *  *


 絶対の正解はわからないまま自分の答えをさぐる。

 解放区にはそれを許す空間があった。

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