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029 ヒーナック・ゲッカーからすれば忌々しいかぎり

 カオリ・ゲッカーが王立学園に入りこんでくる。

 弟のヒーナック・ゲッカーからすれば忌々しいかぎりであった。

 ゲームの展開なんかはどうでもいい、

 ごく単純に、カオリはヒーナックにとって鬼姉だった。

 とりあえず、今のところ、ヒーナックは前世から鍛え上げた交際術を活かして、ゲッカー公爵家の継承権を死守したものの先のことはわからない。

 何せヒーナックは、もともとゲッカー公爵の甥であり、カオリと結婚させるために、ゲッカー公爵家に引っ張られたのだ。

 このまま下手をすれば、自分がカオリと結婚しなければならなくなる。

 冗談、ポイ。

 お断りします。

 せっかく、かわいい男の子の姿に転生し たというのにその利点をどぶに投げ捨てるような真似はしたくない。

 上流階級にとって礼儀作法の必要をヒーナックは説いたが、カオリは冒険者志望ということで、とりあえず礼儀作法のあまり問われないカタチで編入試験を突破したのである。

 カオリの編入試験に立ちあったダスト教官がカオリに速攻でしばきまわされたという話。

 気の毒に。

 相手のカオリはシャレにならない猛獣という話をもう少しダスト教官の耳にそれとなく入るように、ヒーナックも前もって策を打つべきだったのかもしれない。

 いや、わからぬ。

 カオリの王立学園における手下として同じマーサの孤児院の教育を受けていたゼニハー・アルデーがいる。

 何というか、ポジションどりのうまい。

 以前には冒険者学校にも通っていたというがスクールカーストをわきまえて巧妙に立ち回る。

 つまらない噂でも流されたら、ヒーナックが王立学園で理想のショタライフを送るのだというヒーナックのプランが台無しにされてしまう。

 女子として敵に回せば地味に厄介な相手になるだろう、と前世に女子だった経験から、ヒーナックはゼニハーのことを評価していた。

 そいう強さは決して馬鹿にできない。

 ゼニハーはすでに生徒関会の使い走りをしながら、将来に副生徒会長のポジションを視野に入れているという見立てもある。

 下手にぶつかれヒーナックはば、どれだけ敵がどこに生まれるのかわからない。

 時間をかけて将来の布石を打つゼニハーのことをヒーナックは嫌いではない。

 むしろ【できる】と感心している。

 カオリにはゲッカー公爵家から出て行ってもらいたいが、できるだけ穏便なかたちで、出ていってもらいたい。


 正面衝突は避けたい。

 策だ。

 気づかれない策を練るのだ。

 よく準備が整わない間に下手な策を弄しても見破られて逆ねじをくらわされる。


(ボクの知らない間に、ボクに責任の一切に及ばない形で、ボクのために巧妙な策をうってくれる奴が十人もいれば、こちらも善人顔をして天下も取れる)


 ヒーナックはそんなことをふと思った。

 人材集め。

 天下を奪取するため太古から必要とされる。

 どうすれば人材を得られるのか?

 徳?

 最後には星回りというか運であろう。


 結果だけをうだうだ言う者はズレている。

 全て賭けでしかない。

 大抵のことはわかっていないものと感じる。

 自分で自分が納得できるように生きるのみ。

 考えてみれば前世で二宮ひな子だった時はおそろしくあっさり死んでいるのだ。

 せっかくの二度目の人生のやり直しの機会に恵まれた。

 無駄にはしない。

 えいっと握り拳。


(ボクはこの世界をおもしろおかしく生きてやるゾ)


 すべては妄執か?

 自分が自分でなければ生きている意味なんてない気がする。


   *  *


 カオリのことは腹が立つが怒らせると危険な獣。

 王立学園の編入試験においては冒険者志望として試験官をぶちのめして入学した。

 もしも何かトラブルがあれば、カオリはゲッカー公爵家の出であるため、立場としてヒーナックもカオリをかばうサイドにまわらざるを得ない。


「あの人とうちの面子を潰すかたちでもめたらホクもゲッカー家の者ですので。動ける余地はかぎられていますよ・・・

 そういうの、ボク、あまり好きじゃないけど、下の者たちの心をしずめるとを第一に考えて動くしかありません・・・」


 下位者との対話を否定する階級社会。

 厳格型組織。

 迅速に巨大な力を集結させることができるかもしれないというメリットはある。

 あこがれる部外者も多い。

 わかりやすいカタチ。

 それは理不尽にならざるを得ない。

 教育で下位者の知的レベルを上げるというのは柔軟形組織の考え方・・・

 しかし、それには時間と手間がかかるデメリットがある。

 前世からの転生者の知識も多少はたらされている。

 各種のメリットとでメリットを考慮して、エリア王国の王立学園は形成された。


「それにしても、編入試験が試験官をしばけばいいというのなら、カオリお嬢様にとっては楽勝ですよ。マーサの孤児院でも『あれは厄ネタ』として心ない者たちに扱われた人ですからね」


 ゼニハーは両手をひらひらさせながら言葉を選んだ。


「いや、本当、お嬢様は知れば知るほど素敵な方ですが」


 用心のためか、ゼニハーは付け加えた。

 どこまでが本心か判断できない。

 簡単に本心を口にすることは危険。 

 そういう学習をゼニハーは積んでいるのであろう。


「はあ・・・」


 ヒーナックは溜め息をついた。

 前世からのつきあいであるが、カオリはヒーナックにとって一度は追放に成功したはずの鬼姉である。

 それが戻ってきやがったというのだから本当に世の中はわからない。

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