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028 悪役令嬢は王立学園の編入試験でも実力を示す

 王立学園の編入試験。

 正直に言ってしまえば、余程のことのない限り、落とすための試験ではない。

 生徒の家が大切。

 将来の軍や政府の高官や大商人や貴族・王侯が前もって顔見知り。

 争いが起きても,間に入ってくれる者がいる(もちろん血縁関係が過度に複雑化して領地の継承権争いで戦争も起きるようなことはある)。

 こうであってほしいというカタチがあらかじめ用意される安らぎに満ちた階級社会。

 もちろん安定した社会は進化と縁が遠い。

 安定と遠い混沌の中で進化した社会に蹂躙されて消滅する。

 混沌が滅びに通じることも言うまでもない。

 そして、安定もまた滅びに通じる。

 状況を考えることも時間が必要になり、また滅びに通じる。

 全てが滅びに通じるというのであれば、階級社会で安らぎに満ちた環境を与えてもらえることを夢見る平和主義もうなずける。

 ただ、決められたカタチは、迷うことを否定して、ヒトではなくカタチにすがって生きる愚者をうみだす。

 ヒトがヒトを信用する能力を失ったときは、それはおそらく種の滅びの始まりであろう。

 たとえば貨幣の価値は急落する時には急落する。

 現物交換から貨幣取引に至るまで多くの社会が長い時間をかけることは、歴史を知れば明らか。

 貨幣価値を保つために政府はわかりやすくあらねばならない。

 とすれば、世襲も戦争も簡単に嗤えないだろう。

 民からの信用を保たなければならないのだから、きっと貨幣の値打ちを保つためには、わかりやすい力をアピールすることが有用なのだ(と福沢諭吉『通貨論』のようなことを述べる)。

 いったいなぜ世の中にわかりやすい力が必要か?

 トラブルがあふれているから。

 昔から解決に役立ったように多数に見える力はわかりやすい。

 未然にトラブルを巧妙に不発に終わらせて避ける技術の重要性はわかりにくい(特に実際のトラフブルを経験していない者にとっては、わかりにくい。愚者は経験に学び、知者は歴史に学ぶと言う。実際に知者は数少ない)。

 何をするにしても、多くに伝わるカタチは大切。

 スクールカーストも平和好きの心が安定するのだから、それなりの意味はある。

 カオリ・ゲッカーは大貴族の令嬢である。

 しかるべき扱いを王立学園で受けても当然だった。


   *  *


 ┅┅まさか試験に落ちるわけないだろう。

 

 そうは思いつつもカオリは格闘に向いた冒険者の衣装を着ていた。

 鬼が住むと人々が噂するほど評判が高いマーサの孤児院の出身。

 目の前の現れた敵をぶちのいめせばいいというのならば話はカオリにとってわかりやすい。


「さ、やろうぜ。こいよ」


 カオリの前に現れた青年はカオリよりも頭一つ大きい。

 武器は持っていないが、魔法でも使えるのか?

 よくわからないまま、カオリは言った。


「要するに、あんたをキャンと鳴かせれば合格なわけね?」

「そういうこった」


 試験室におい、青年はそう言って、カオリに殴りかかった。

 正気か、こいつ?

 遅い。

 カオリは左にダッキングしてボディ・ブロー。

 離れ際に右の前足底を相手の金的に蹴りこんだ。

 うずくまる相手のテンプルに右のサイドキックを遠慮なく刺しこんだ。当


「これで、終わり?」

「いや、まだだ」


 ふらふら青年は立ち上がりながら言った。

 カオリは驚いた。

 少しだけ。


「面白い」


 相手の髪の毛をつかんて顔面に膝。

 残念ながら、複雑なことはよくわからない。

 足をもとうとした相手の右腕に、逆に両足をからめて引き倒した。

 グラウンド。

 相手の頭を自分の股にはさみ、相手の両肩を自分の両足でロック。

 もがこうとした相手の両足を自分の両脇でかかえこむ。

 相手の手足の自由を奪って、相手の首を折りにいく。

 完成。

 ゆりかごから墓場まで直葬。

 最終形がゆりかごに似ているからということで奇妙な名前のつけられたサブミッションだ。ナラ


(こいつが試験官ならば首の骨をやっちまえば合格よね?)


 カオリは素直にそう考えた。


「まだ、やる?」

「もういい。合格だ」

「どーも」

「ああ。だが、お前は俺を殺せない」


 カオリは驚いた。

 確かに殺すつもりは無かったが、それでもこの相手は自分を殺せると思っていた。


「どうして?」

「お前、人を殺したことないだろう」

「ほえ?」

 

 露骨な不正解。

 あっけにとられるカオリに青年は続けた。


「人を殺すには覚悟がいる。その覚悟が・・・」


 カオリの感想。


「覚悟とか難しいことはよくわからないけど、実際に経験してみるまで殺せば死ぬって、あまりわからないって思う。殺すってどういうことかわかっていない奴はね」


 十行もあれば五万人の敵を 五分もかからず平気に皆殺しにできるネット小説のキャラの約半分ぐらいはカオリは残酷だった。

 どーでもいいことだが、城内に億・兆・京単位の敵がいるというのは、いくらフィクションにしてもやりすぎではないかと個人的には思う。

 カオリはたずねた。


「要するに、あなたを殺せば根性者として大合格ということになる制度なわけ? もしも大合格になった場合のメリットとかあったら教えてもらえる?」


 青年は言う。


「大合格と思うなら、それでいい」


 カオリは考えた。

 これは試験だ。

 相手は、おそらく試験官の一人で、カオリを試しているに違いない。

 ならば、ここで相手を殺してしまっては失格になるのではないか?

 

「わかった。大合格みたいな制度はないというわけね?」


 カオリはゲッカー公爵家の娘だ。

 特待生として奨学金をもらうようなことも別に大した魅力はない。

 奨学金をもらった場合、何らかの義務が生じる可能性だってある。


「普通の合格で十分よ、こちらとしては」

「賢明な判断だ」


 青年はそう言うと、カオリはホールドを解いた。

 相手の青年は振り向きざま、右の回し蹴り。

 そういうことは当然にある。

 離れ際に相手の攻撃の選択がしぼられるように距離と角度は調整した。

 カオリは左膝をあげてクッション受け。

 がっちり受けるのではなく、膝から下の部分を緩めておいて、キャッチするように柔らかく受けて押し返す。

 バランスを大きく崩した相手の股間を右で蹴り上げる。

 マーサの孤児院は武闘派が育つと悪名が高い。

 カオリ・ゲッカーはかの孤児院でもその人アリと謳われた武闘派だ。

 股間を抑えて呻く青年にカオリはたずねた。


「これで普通に合格?」

「ああ、そうだ。残心もきっちりできるな?」

「弱者死すべし。邪悪断つべし。牛肉だってオレンジだって自由化だ。あたしもそういう教えを受けてまいりました」

「そうか・・・」


 青年は力なく笑った。

 それから言った。


「俺は、ダストだ」

「あたしはカオリ・ゲッカーです。とりあえずは冒険者として入学します」

「冒険者として入学するんだったら、一つ忠告だ」

「何?」

「この学園には、お前みたいなのがゴロゴロいる。気をつけろ」


 カオリは宣言した。


「マーサの名前を辱めないように、あたしも精進いたします」

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