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025 弟に対して積極的に自己批判援助(物理)する

 もしも、この物語の主人公がヒーナック・ゲッカー(前世の名前は二宮ヒナコ、ラジオネームは【男の子にTS転生しちゃったニノミヤくん】である)が主人公であれば、タイトルはどうなっていただろうか?

 

 ━━悪役令嬢の弟にTS転生したけど、弟の目線で見て相手は鬼姉だったので、ゲーム本編に入る前にワンチャンスをつかんで家から追放してみた━━


 そんな感じになっていたかもしれない。

 イヤな鬼姉のカオリのいない時期のヒーナックの生活は快適そのものだった。

 侯爵家の跡取りの地位の約束された天才美少年。

 周囲はちやほやしてくれた。

 しかし、北のア・バシリ―の地から、カオリがゲッカー公爵家に戻ってくるという。

 王立学園にもたらされた情報によると、鬼姉のカオリは生きて出ることが難しいと言われるマーサの孤児院で格闘レベルをあげ、ついでに闇魔法まで身に 2つけている。

 いったんゲッカー公爵家から縁切りされたはずのカオリが、大幅パワーアップしてゲッカー公爵家に戻ってくる。

 そんなことが許されるのか?

 許されるのである。

 カオリの横には現物の犬が味方になった。


「わんわんわん」


 その犬の名前はえちょこ・わんた・魔犬エルサス。

 エルサスは前世においてカオリのおばうちゃんのご近所の犬で、カオリのおばあちゃんの家の猫のミケ、ついでに、カオリとの交流をもっていた。

 4625(シロネコ)企画の設定した世界は、すでに9612《クロイヌ》乗っ取られている。

 そして、9612(クロイヌ)企画の設定によれば、この世界は前世で徳を積んだ犬たちのために用意され、犬の心こそ最優先されるべき事項である。

 犬イジメをする外道は昆虫以下の扱いを受ける世界のルールを利用してカオリを追い出した。

 しかし、カオリに味方する犬はいれば全てが逆転する。

 犬は大切。

 ヒーナックはカオリがゲッカー公爵家に戻ってくるのを止めることはできなかった。


   *  *


 三年ぶりぐらいにカオリは、王都のゲッカー公爵邸に入り込み、弟の部屋に入ってきた。

 ヒーナックが呼んでもいないのにやってくる。

 北の【モンスター・ファクトリー】とも噂されるマーサの孤児院で、鬼姉カオリは死なないどころか、【せんし】と【くろまほう】のレベルをたっぷり上げて戻ってきた。

 

 カオリの発言。


「おひさしぶりね、ヒナくん」

 

ヒーナックは言う。


「おひさしぶりです。カオリお姉さま、ゲッカー公爵家の次期当主は僕ですよ。お姉さまが、この屋敷を追い出されて、その間に正式に僕が跡取りということに決まったのです」

「え?」

 

 カオリは少しだけ考え込む。 

 元のゲームの世界と違う。

 ア・バシリ―の地にカオリが追いやられている間にヒーナックは地道にゲッカー公爵家の中のポジションを固めていた。

 現在のヒーナックはゲームの世界と同じ天才美少年である。

 将来的にはイケメンになる素質がある。

 もともと女子高で完璧委員長と呼ばれていた二宮ヒナコの記憶を持つヒーナックは、ゲームの世界と違って、女性心理を読む世渡り上手になっていた。

 

「お姉さまはゲッカー公爵家の次期当主である僕より偉いのですか?」


 悪い芽は姉として早く積むべきだとカオリは判断した。


「そうね、お姉さまのほうが絶対に弟より偉い」


 ヒーナックは絶句する。


「え?」


 カオリは言う。


「ねえ、ヒーナックのラジオネームは【男の子にTS転生しちゃったニノミヤくん】だとか?

 調べはついているのよ。

 あなた前世は私立桜が桜ガ丘女学園の生徒の二宮ヒナコでしょ?」


 衝撃。

 ヒーナックのラジオネームが鬼姉に知られていた。


「なぜ、ボクのラジオネームを・・・?」


 その問いに答えず、カオリは語った。


「あたしの前世は、桜ガ丘女学園であなたのクラスメートだった月下カオリなのよ。ゲッカ・カオリはカオリ・ゲッカーに転生したってゆーわけ」


 ヒーナックのラジオネー ムは【男の子にTS転生しちゃったニノミヤくん】というもの。

 その前世の名が二宮ヒナコではないかと何となく見当がつきそうなものである。


「え?  お姉さまの前世が、桜ガ丘女学園の月下カオリ?」


 そうよ、とカオリはうなずいた。


「前世であたしは桜ガ丘女学園の生徒の月下カオリだったの。委員長には試験前にノート借りたり、宿題とか見せてもらったり、色々とお世話になった記憶はある」 


 ヒーナックは記憶をたどる。


「うわ、カオリちゃんなの? 本当? 桜ガ丘女学園・・・ さすがに、なつかしい」


 カオリは語る。


「あたしのおばあちゃんの飼っていた猫であるミケさんもこちらの世界に転生していてね。『ヒナちゃんはご近所の野良猫のためにエサをあげたりする優しい子だったから、ヒナちゃんがあなたの弟に生したのだったら、きちんと話し合ったら仲良くできるはず』って、ミケさんは言っていた」


 親切は他人のためならず。

 まわりまわって自分のため。

 ヒーナックが前世でご近所の猫たちにフレンドリーに接していたことは、猫族に好感を与えていた。


「えーと、ボクが二宮ヒナコだった前世では特にカオリちゃんに恨まれるようなひどいことしていないよね?」


 ペコリとカオリは頭をさげた。


「前世では、お世話になりました」


 だったら、とヒーナックは抗議する。


「こちらの世界で、ボクのことをいじめねのはやめてよ


 いじめとか言われてもカオリはそんな意識はない。


「前世のことは前世のこと。現世では、あたし、あなたの姉になったのよ。姉として弟に当然の態度で接しているだけじゃない?」

「いったい姉が弟に取る態度について、何が当然な態度なのか、ちょっと考え直してほしい」


 ヒーナックからすれば、カオリ・ゲッカーは将来にゲームと同じく悪役令嬢になる危険があると言うより、現在進行形で耐え難い鬼姉だった。


「あたし、前世のことは前世のことで、現世とは関係ないと思う。

 転生前に江戸時代に書かれたという『白縫物語』で、前世に悪女だったと言う理由で、袋詰めにされて川に捨てられた猫が化け猫になってフクシューに来る話あったけどさ、アレ、ひどかった。

 猫の立場からしたら、『前世のことなんて知らん』という状況で、現世で何も悪いことをしていないのにいきなり酷い目にあわされちゃう」

「はあ・・・」

「あたしは現世のことは現世のことだと思う。いったん死んで生まれ変わったら終わり。

 前世でヒーナックが女の子だったとしても、現世では男の子なんだから、女の子が好きだというのは、あたしも姉として文句は言わない」

「うん」

「でも、マイナーすぎるアイドルを推したらダメよ。弟の趣味が悪いのは、姉として許さない」

「マイナーすぎる?」


 衝撃を受けるヒーナックに対して、カオリは冷たい視線を向けた。


「だって、どーせ売れそうもないショボイ地下アイドルを、応援しても意味ないよ」

「次に何が来るのか、わからないよ。あのね、カオリちゃん、新しい風が吹くときには吹くよ。

 それに、売れるかどうかでボクは応援しているんじゃないから。ボクはあくまでも自分の好みが大切だと思っているし」

「あたしは現世ではあなたの姉だから、弟を正しい道に導くのは姉の義務よ」

「いや、だから・・・」

「ワガママ言うんじゃない! 興行はね、売れないのはドロボーと同じじゃない?」

「売れるとか売れないとか言うのではなく、ボクたちファンは明日を生きる元気をもらうわけでして」

「いったん興行に失敗すれば、興行を打つ側は魔法のように首がまわらなくなつて、大勢の者が生活に苦しみ、死人が出るようなこともあるの。ゲッカー公爵家の者が無責任に甘いことを言わないでちょうだい」


 ヒーナックは抗議する。


「それは興行を打つ側の都合です。ボクは純粋にアイドルの笑顔やパフォーマンスに感動していますから」


 ぴしゃりとカオリは言った。


「何が『純粋に』よ? 余計タチが悪い」


   *  *


 再会した姉と弟の会話は険悪なものになった。

 カオリのことを単純に鬼姉だったと言えるかどうかは微妙なところである。

 弟のヒーナックが学業優優秀で超絶美形ショタであったとしても、地下アイドルまで追いかけるドルオタになって夜更かしして深夜放送を聞くハガキ職人に育っているというのでは・・・!


 ┅┅ヒナくんを間違った道に進ませるわけにはいかない!

 

 カオリは、思う存分、心ゆくまで、祈りをこめて、弟に自己批判援助(物理)をしてやった。


第一部は完結。

24話予定で25話で終了。

だいたいプロットどおり。

執筆補助AIの指示するラスボスがアレだったのでヒロインも鬼姉という印象が低くなりました。


第二部はまたプロットを思いついたら・・・

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― 新着の感想 ―
カオリ…前回のフォウのお説教はいったいなんやったんや…まるで反省しとらんやんけ。 第一部完結お疲れ様です。久々に生の狂気を味わいました。
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