002 プレイ経験のあるゲームの世界に転生した気がした(ハズレ)
大きなソファにゆったり腰かけて居眠りしていたカオリがふと目覚めると、いきなり小さな子供になっていた。
(何これ?)
やたら豪著な部屋で、カオリが鏡台でみかえすと、髪型が金髪縦ロールのかわいい令嬢が移っていた。
小学生くらいの女児。
転生前に、【夢幻郷と君の微笑み】というタイトルの乙女ゲームをカオリはやっていた。
問題のゲームのヒロインの名前でなく悪役令嬢の名前は、いかなる偶然だったのであろうか、カオリ・ゲッカーであった。
まるで月下カオリの名前をもじっているようだった。
「もしや、異世界転生・・・」
これは不慮の事故に巻き込まれて死んだものがゲームの世界で悪役令嬢に転生するパターンだ、とカオリはピンときた。
転生前のカオリは謙虚さに自信はあった子が、この時ばかりは、自分の安易な思い込みは多くの場合に外れていると考える慎重さがなかった。
そうこうしているうちに部屋の扉がノックされて一人の男の子が入ってきた。
「そろそろ王子殿下がくいらっしゃると時間ですよ」
ヒーナック・ゲッカー。
彼は【ムゲンキョー】のの【ムゲンキョー】悪役令嬢カオリの弟である。美少女のような可愛らしい容姿。【ムゲンキョー】のゲーム本編ではショタ枠で聖女ヒロインの攻略対象になる。
「ひょっとして4625(シロネコ)企画の【ムゲンキョー】の世界なの?」
あたふたしているカオリを見て、ヒーナックはハイともイイエとも言わなかった。
少し顔をこわばらせた。
「このタイミングでいきなり前世の記憶が戻った?」
「え?」
カオリは驚いた。
何だか、ヒーナックキは理由知り顔。
「落ち着いてボクの話を聞いてください。前世の記憶がよみがえるということは、この世界ではわりとよくある琴なのですなのです」
「よくあること・・・」
━━前世の記憶がよみがえるということは、この世界ではわりとよくあることなのです━━
そんな奇怪な設定は、4625(シロネコ)企画のゲームになかった。
この時点で、もしカオリがもう少し世知辛ければ、自分が転生した世界き当該ゲームの世界と違うことに気づいたであろう。
ヒーナックは言葉を続けた。
「前世の記憶を一気に取り戻した時に現世の記憶が一時的に飛ぶという話がたまにあります。そういう場合には、現世の記憶は少しずつ戻るみたいですよ」
「そうなの?」
よくわからないがカオリはそういうものかと納得せざるを得なかった。
一見しただけでは、ヒーナックは嘘をつく男の子に見えなかった。
容姿はまるで天使のように愛らしい。
「それよりもコーキ王子殿下がいらっしゃるんですから早くお支度してください。今日は、お姉さまとコーキ王子殿下が婚約することになっています」
コーキ・レオ。
それが【ムゲンキョー】の王子の名前である(執筆補助AIが推奨 )。
「聞いてないよ」
「前世の記憶はの戻ったことでお姉さまの頭の中が一時的に混乱しているだけですよ。話は一年前ぐらいから進んでいました」
「いきなりそんなことを言われても、ちょっと心の準備が・・・」
乙女ゲーム【ムゲンキョー】では、悪役令嬢のカオリは王立学園で断罪されて婚約を解消されて追放されることになる。
「理屈としては、婚約解消される前に婚約しなければいけない。ゲーム本編では描かれなかった前日談場面ということね?」
カオリは【ムゲンキョー】をやったことがあるから事後の展開がわかっているようにカオリには思えた。
しかし、それは何の役にも立ちそうもなかった。
ヒーナックが言うには、
「お姉ちゃん、本日はお姉さま十王子殿下が初めて面会して婚約するので、ゲッカー公爵家にとっても大切な日です。前世の気温がもどって頭の中が混乱しているとか言って、今さら王子庭殿下との面会をお断りになるわけにはいかないのです」
カオリが婚約しなければゲーム本編に入らない。
謙虚で純粋無垢なカオリは諦めた。
「わかった。でも、あたし、どうしたらいい?」
とつぜんヒーナックはたずねてきた。
「犬と猫、どちらがいい?」
なぜ、この時点で、そんな質問をされたのか、カオリにはわからなかった。
「え? どちらかいえば猫かな・・・」
答えを聞いたヒーナックは目を大きく見開いた
「ふーん」
カオリの元前世いた世界では、猫と暮らす人が犬と暮らす人よりも増えて、嘆かわしいことに、猫人気でネコノミクスとか騒がれていた。
「どうしたの?」
「コーキ王子さまとお話するときには、何でも正直に話してくださいね。正直は最大の美徳です」
ヒーナックは嘘を言わなかった。
正直は最大の美徳だが、正直に言えば何もかもうまくいくという保証はない。