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019  奸智は第一部のラスボスとしてふさわしい

 もしも、カオリ・ゲッカーが三年ほど前に追放されなければ、前世で言えば中学に入学するぐらいの年齢であり、王立学園に入っていいただろう、

 カオリ・ゲッカーの弟のヒーナック・ゲッカーは、成績優秀ということで、飛び級で王立学園に入学していた。

 王都のゲッカー公爵家の屋敷では、ヒーナックはゲッカー家の跡取りの第一候補としてぬくぬく暮らしていた。

 いまだに正体が謎の第一部のラスボス。

 何でもアリで悪が勝つ?


「ワンチャンスを逃さず、カオリをゲッカー公爵家から追い落としたことは正解でしたね」


 屋敷の自室内でヒーナックは一人ベッドに寝転んで嘯く。


「前世の乙女ゲーム【ムゲンキョー】では、カオリは単なるありがち悪役令嬢だった。

 でも、こちらの世界でヒーナック・ゲッカーに転生してみたら、将来にカオリが悪役令嬢になる素質があるうんぬんはどーでもいい。

 弟にされたヒナくん(ヒーナック・ゲッカー)の立場からしたら、カオリ・ゲッカーは子どもの頃から、ろくでもない鬼姉だもん。いらない、いらない、あんなお姉ちゃん、絶対いらないよ」


 ┅┅悪役令嬢は弟にとって鬼姉になる。

 なるほどそういうこともあるだろうという展開。

 家の中では優しいお姉さまて外ではゴミクズという展開はなかなか発生しない。

 家族の心を読んで上手に気遣えるものが家の外でも相手の心を読んで不要の争いの芽を未然に積む努力をするのが通常であろう。

 実際に争うよりも未然に防いだ方が手間も時間もかからないはずという余計な争いが多い。

 そういう意識がないから、家の外では悪役令嬢家でありの中では鬼姉であるというシロモノが生み出されてしまった。


 ヒーナック・ゲッカーは本来にカオリ・ゲッカーの父親の弟の子に産まれた従弟である。

 ゲッカー公爵夫人はカオリ以降の子作りを予定せず、ヒーナックは、ゲッカー家の本家の血筋を引く男子として、本家であるゲッカー家に養子に出されてしまい、カオリの弟にされた。

 ゲーム中では聖女がヒーナックのルートに進まなければ、ヒーナックはカオリの犯罪を手伝わされたり、そうでなくても、カオリと結婚しなければいけない。

 踏んだり蹴ったりである。

 冗談じゃありません。

 そんなの、ヒナくん、かわいそうすぎるでしょ?

 もとねとの乙女ゲームの【ムゲンキョー】では、ヒーナックが悪役令嬢カオリの魔手から逃れるためには聖女のハートを射止めるしかない。

 しかし、聖女は乙女ゲーム【ムゲンキョー】のヒロインである。

 ヒーナックが聖女を積極的に狙っても、他に恋敵がうじゃうじゅ出現するであろうからして、ヒーナックが聖女と結ばれる可能性は、わりと低め。

 となれば、である。

 ワンチャンスあれば、ゲッカー家から鬼姉のカオリを追い出した方がお利口さんであるまいか?

 ヒーナックはカオリ邪悪な犬ギライの疑いが降りかかるように立ち回り、ついには、ゲッカー家からカオリを叩きだすことに成功したのである。

 ヒーナック・ゲッカー。

 ショタコンを尊死させる天使のような可愛い容姿をしているのに、その奸智は第一部のラスボスとしてふさわしいものだった。


   *  *

 

 その夜、ベッドでも無理につく前にヒーナック・ゲッカーはラジオつけた。

 この世界はファンタジー世界であるが、どういう魔法なのか、ラジオはあった、

 魔族よんてんご天王のフォウ・デ・タマカがパーソナリテをつとめる深夜放送を、ヒーナックはよく聞いていた。

 

 ┅┅起きろ! まだ寝てんじゃねえぞ♪ 今夜もやってまいりましたよ。リスナーのみんな、はじめましての方もおなじみの方も、こんばんわ、どーも。魔族よんてんご天王のフォウ・デ・タマカです。いつものでたまか、でたところまかせで、今夜もみんなで突っ走ろー♪


 明日も学校があることをお思えば本当はおやすみの時間だけれども、転生者で精神年齢の高いヒーナックは夜明かしをしてベッドで深夜放送を聞いていた。


「ごーごー♪」


 ┅┅起きろ、ついでに生きろ! まだ生きているかぎり、リスナーのみんな、明日の希望はあるよ、多分ね? いや、絶対あるから! まず、最初のお便りです、ラジオネームは男の子にTS転生しちゃったニノミヤくんです。『こんばんわ、フォウさん、いつも元気で明るいフォウさんの番組を楽しみにしています。相変わらずボクも王立学園で男の子生活を全力で楽しんでいます。まわりの女の子たち、みんな、かわいくて、ボクにとても優しくしてくれます。密かにボクのファンクラブができたという話もあります。えーん、みんなとの距離とりは難しい。そこをどう渡っていくか、ボクの腕の見せ所です。みんなに愛されるショタキャラを目指します』って・・・ うるせーよ、ニノミヤ、またモテ自慢かよ? チクショー、お前、ふざけんな! 女の子もオーケイの女の子が帰属の家のかわいいショタの男の子に転生したらどうなるかって、本当にやりたい放題だな、ニノミヤくんは理想のショタの道を爆進しちゃうのもいいんだけど、暗い夜道を歩く時は、本気で後ろから背中をブッスリ刺されないように気をつけましょう。・・・わ、わかっているよね、ニノミヤくん? 月の明るい夜だけじゃねえぞ。てなわけで、ハイッ! ニノミヤくんのリクエスト曲はサラ・イマカの『ここへおいで』だ!



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