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018  天の与うるを取らざれば反って其の咎めを受く

 ア・バシリ―のマーサの孤児院では、将来に犬ギライを断粉砕 ア・バシリ―のマーサの孤児院では、将来に犬ギライを断粉砕する人になるべく、武闘派になることが奨励された。

 謙虚で純無垢な性格と執筆補助AIが認定するヒロイン。

 カオリ・ゲッカーはマーサの孤児院 の教育に順応した。

 もともと4625(シロネコ)企画の乙女ゲームだった頃に格闘ゲームにしようというアイデアもあり、カオリはコンポがつながりやすい強キャラに育った。

 飛び道具の闇魔法も、興行の重要性と同胞愛をもって興行を盛り上げる仲間たちとの信頼関係の重要性とともに、魔族から学んでいた。

 孤児院で学年総代がつとまりそうなポジション。 

 ゼニハーは、4625(シロネコ)企画のゲームの世界では、悪役令嬢カオリお嬢様の只の取り巻きの娘だった。

 しかし、この世界においては、ゼニハーはカオリ親分の子分といった位置におさまっていた。

 そんな時期に、突然に南のアルディ家からお呼びがかかった。


   *  *


 ゼニハーは語った。


「どういうわけで、おじいちゃんがあたしのことを探いようになって孤児院から引き取りたいとか言い出したのか、申しあげやしょう。

 フリンおじさんが他の女に手ェ出して、おばさんが子ども殺してフリンおじさん殺しました。

 それで、おじいちゃんの血をひくアルディ騎士爵の直系の跡取り候補があたしだけになっちまくったのです」


 アルディ騎士爵の跡取り、フリン・アルディは妻子持ちにかかわらず他の女に浮気して、奥さんが子どもを殺して主人のフリンを殺した。

 王女メディアの悲劇。

 お綱門伝説。

 浮気された奥さんが自分と夫の子を殺してから夫も殺そうとするのは古今東西に例がある。

 カオリは言った。


「そんなの、子どもまで殺すことはないと思う」


 ゼニハーは解説する。


「おぱさんはフリンおじさんのことを絶対に殺すつもりだったんしょう。子どもが残されたら、子どもが生きていくのは大変なことになりますよやね?」

「それはそうだけどさ」

「結局、おばさんはフリンおじさんを殺しに行く前に子どもは苦しまないで死ねる毒を使ったそうで」

「なんでそんなことがわかるの?」

「おぱさんの部屋から、毒の入った壺が見つかったとか。あたしのいとこの子は安らかな顔で眠るように死んでいたみたいでして」

「それ、こわい話だね」


 カオリは首をちぢめた。


 世界はどうしようもなく争いに満ちていた。

 ハッピーエンドの見えた派手なアクションのあるバトルなんて可愛いものだ。

 今回のケース。

 子どもだけは苦しまないように死ねるように、と特別な毒をフリン・アルディの妻は用意した。

 とすれば、できることなら彼女も我が子を殺したくなかったのだろう。

 それでも、浮気したフリンに対する怒りを抑えきれなかった。

 情念?

 一般論で語るのであれば、彼女のやったことを正当化する理屈はない。

 それでも、彼女に「こうすればよかったのに」と納得できる手段を自分で示すことができなければ、本当の意味で、彼女を裁くことはできない(自由意思論)。

 せめて彼女が社会契約論に納得して社会契約に同意してくれていれば一般人が納得する手段を示かことで彼女を責めて裁くことが彼女本人にとっても少し意味のあることになるのだが・・・(積極的一銀予防論・意思決定論)。 


 彼女の狂乱によって跡取りフリンを失ったアルディ騎士爵領を誰が継ぐのか問題になった。

 フリンの子も殺された。

 そして、フリンの弟であるユメが―は冒険者になって行方不明。

 そこで、ユメガーの子であるゼニハーが後継者候補に浮上したのだ。

 アルディ卿はユメガーとゼニハーを探して家に戻すことを考えたのである。


 ゼニハーは溜め息。


「そんなに血筋って大切なものなのでしょうかね? うちのおじいちゃん(アルディ卿)とお父さん(ユメガー)はそりがあわなかったから、お父さんが行方不明になったときも、あたしもアルディ家に入れてもらえず、孤児院に送りこまれたというのに・・・」

「自分の血筋を残したいというのは生きている物としての本能かも?」

「いや、あたしの値打ちって、アルディ家にとって血筋だけかヨと思ってしまいます」


 カオリはこほん、と咳をした。


「そんなの、人間の値打ちの話をするなら、自分は誰から値打ちをつけてもらいたいかということを先に考えないと・・・

 今日の言うことと明日と言うことの違う、話しのころころ変わる連中があんたのことを良く言おうが悪く言おうが、ただ、単に風が東から吹く日もあれば、西からも吹く日もあるという程度のことじゃない?」

「風ですか?」

「それは険しい山道とか歩くつもりなら、風の向きを気にして、天気が変わることを予想して動けなければ、泣きを見るどころか、生命にかかわることもある」

「はあ」

「もしも、あんたが天下盗りを目指して中原の鹿を追うつもりなら、変わりやすい民の心を常に意識して、大きな流行に乗るべし」

「さすがに、あたし、天下盗りなんて狙っていませんから」

「そうか。ゼニハーも自分で自分の道を選んだ方いいって思うよ」

「イエッサー」

「何だかんだ言っても、あんた、アルディ家に戻るのでしょ?」


 ゼニハーは笑った。


「もちろんですよ。あたし、落ちている金は拾う主義ですから♪ アルディ家の地位も財産も、あたしが総どりしてやるろうつて意気込みしてで」


 たとえ、叔父一家の不幸が契機であったとしても、ゼニハーが孤児から騎士爵の家の跡取りになれる機会がめぐってきた。


 ━━天の与うるを取らざれば反って其の咎めを受く━━


 せっかくの機会を見逃していいほど余裕をゼニハーは持ち合わせていない。


「がんばれ」


 カオリはエールを送った。


 この時のカオリは、自分についてもゲッカー公爵家に復帰させていいのではないかという話が、水面下で進んでいることを、まだ知らなかった。

 

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