011 犬だけでなく猫も尊重される公平な世界が望ましい
猫語を理解して通訳することができる魔女のフォウ・デ・タマカは、しばしば、カオリ・ゲッカーのいる子ど院にやってくるようになった。
そして、無責任に扇動する。
「どうにかしてゲッカー公爵家に戻りましょう。ゲッカー公爵家の権力も財産もみんな猫助けのために使うとよいのでは?」
誰にとってよいのか?
少なくとも猫族にとって都合の良い話だということはカオリにもわかる。
猫族の恐ろしさ。
普段からこまめに宣伝活動をしておいて「みんながそう言っている」をやる。
そういうプロパガンダは、証拠とか気にしない民(目を潰されたものと漢字で書く)をコントロールするためには有効なのある。
カオリは溜め息。
「ぐいぐい猫を推してくるね、フォウは?」
前世でカオリのプレイした4625企画のゲームでは、フォウの役回りは違っていた。
カオリがコーキ王子に婚約していて、王立学園でコーキ王子が聖女に心を奪われて、魔族四天王のフォウは悪役令嬢のカオリの嫉妬を煽って騒ぎを起こすという設定になっている。
しかし、この世界では、カオリは王立学園入学前からゲッカー公爵家を叩きだされていて王子とも婚約しておらず、フォウは魔族よんてんご天王という中途半端な肩書きである。
フォウは語る。
「あたしは、猫を大切にしていたから、は魔族よんてんご天王になりました」
「ほえ?」
カオリがけげんそうな顔をすると、フォウは説明した。
「あたしは猫語通訳のできる魔女。そこに、犬語がわかる猫のミケさんがやってきました。
猫語のわかるあたしはミケさんと話し合って手を組んで犬の心を魔族に伝えるコミュニケーターとなり、魔族の中で地位を高めたのですよ」
「何と言えばよいのか・・・?」
「すごい?」
「・・・すごいかな?」
「へっへー♪」
フォウはどや顔である。
(猫語を通訳できる程度の能力・・・ 犬が最高とされるこの世界では何の役に立ちそうもなく思えるけれども、猫なのに犬と普段からおしゃべりしていたミケと手を組めば、下手に魔法で暴れるよりも優遇されるよね・・・)
カオリはたずねた。
「そもそも、よんてんご天王って何なのよ?」
やれやれ、とフォウは肩をすくめる。
「あたしの活躍は、半分以上はミケさんおかげだって。あたしのことをひがんでいる連中もいるのです。あたし、負けねえし。魔女は猫と仲が良いのは伝統。困ったときにはいくらでも猫の手を借りることにしています。特殊技能を生かしたニッチ戦略であたしは四天王につぐ地位にまでのぼりつめました。四天王でなくても、よんてんごのれーてんごの部分ぐらいには偉いという話になっています」
4625企画のゲーム【ムゲンキョー】の中と同じく、フォウには小悪魔的な雰囲気があった。
ただ、自分と猫のために策を練るこの世界のフォウは、4625企画の設定のフォウよりも生きることを楽しんでいるように見えた。
「犬語通訳の猫であるミケさんと猫語通訳の魔族であるあたしがタッグを組んだ時点で、この犬最優先の世界で、あらゆる魔族があたしとミケさんのチームを粗略に扱えないのです」
フォウは手足をバタバタさせてクルリとその場で一回転して、
「にやんだーふるっ♪」
と踊った。
前世に高校生だったカオリは、精神的に自分の方がフォウよりも年上のように感じた。
もっとも、現世においては、フォウの方が年上のお姉さんである。
横でゴロ寝していたミケが口をはさんできた。
「にやーごろにゃーごろろろろろろろ、うにやーにゃー」
「にゃおん? ふにゃあふにゃあ、みゃおう、みゃおん」
フォウは当然のように猫語で応じる。
器用なものである。
この世界では、ほとんど、その一芸だけで魔人の社会における地位を築き上げたとか。
「みゃおーん、ふにゃあ、うみゃーう」
「にゃむむ? うーにゃん、にっににににゃおーん!」
「にやーん? ふにゃおう?」
会話は一方通行なようである。
フォウがミケを抱きかかえた。
ミケは両前足でフォウの腕をたしたしと叩きながら訴えた。
フォウは言う。
「この世界はまだまだ不完全だと思うます。犬ギライを叩くのもいいのですが、卑劣な猫ギライも痛めつけるぺき」
「どういうこと?」
「犬ギライも猫ギライもまとめて処されたらいいのですよ。犬優先のこの世界では、猫の地位はまだ十分に高くありません。だから、あたしねミケさんもこの世界をもっと猫に優しい世界にこの世界作り替えてみたいのです」
「ん? んん?」
カオリが首をかしげていると、フォウはにっこりと笑った。
「あのね、あたしたちのやりたいことってね。動物愛護です」
「動物愛護ねえ」
カオリはふと思った。
(この世界のフォウは前世でやったゲームの世界のフォウよりもゴキゲンにイカレているのかもしれない・・・)




