010 もしかしてNNN案件ではあるまいかと疑ってみる
ゼニハー・アルディ。
執筆補助AIの提案する悪役令嬢の取り巻きの名前である。
ジェニファ―・RDとすれば、もう少し普通っぼい名前だったような・・・
しかし、執筆補助AIは他の多くの利用者が書いたものをピッグデータとして利用している。
おそらく「銭はあるで」と叫ぶようなのが、近年の悪役令嬢の取り巻きらしい仕草なのであろう。
もっと上品な名前として【ドクゼツ・チャン】というのも提案されたが、どのあたりが上品なのか、よくわからない。
とりあえず、【ゼニハー・アルディ】に決定した。
* *
孤児院のお昼休み。
庭に一匹の野良猫が出現した。
前世でカオリが見た顔つきの猫。
おばあちゃんの飼っていた三毛猫のミケに似ている。
三毛猫だったらミケならば二毛猫だったらニケであろう。
雉子虎猫はらばキジ。
鯖虎猫ならばサバ。
カオリの前世の父方のおばあちゃんはそういうネーミングセンスをしていた。
┅┅もしやミケの転生でわ?
この時ばかりはカオリはなぜかピンときた。
自分も月下カオリだったという前世の記憶があったため、謎の三毛猫の前世がおばあちゃんに世話になっていたミケだ無感じた。
謎の三毛猫はカオリの前でゴロンと寝転がってみせて。、「おいで」と合図かるように手招き。
「にやーにゃー♪」
カオリが手を伸ばすと、謎の三毛猫は「ついてきなさい」とばかり走り出した。
「待ってよ」
走る動物を追いかけるいぬごころを刺激されてしまったのか、カオリは謎の三毛猫の後を追った。
謎の三毛猫もカオリの体力も普通ではなかった。
高いところに上ったり、下に飛び降りたりするのも、トップクラスの野生猫の身体能力を発揮した。
「どうしたのですか、カオリさま?」
ゼニハーのような取り巻きの子どもたちは謎の三毛猫とカオリついていくることができなかった。
* *
いつしか、カオリは謎の三毛猫に導かれるまま、孤児院から少し離れたところにある大きな木の下に辿り着いた。
「にゃーん」
毛猫が鳴くと、木の後ろから一人の魔族の少女が現れた。年の頃はカオリよりも少し上くらい。
「ようこそ、カオリちゃん。あたしの名前はフォウ。四天王っぽい名前だけれども、今のあたしは魔族よんてんご天王のれーてんごの部分のオミソ扱いされている。えーい、口惜しや。【賀茂川の水、双六の賽、山法師。これぞ我が心にかなはぬもの】とはこのことか? カオリちゃん、あたしが魔族よんてんご天王のフォウ・デ・タマカ」
カオリは前世で4625(シロネコ)企画のゲームをやっていたので彼女のことを知っていた。
猫目の美少女。
ショートカットだが、てかにも女の子っぽいフェミニンなスカート姿。
前世において、4625(シロネコ)企画のゲーム内のフォウのファッションセンスが少し時代遅れと非難されていた。
しかし、現世のカオリの孤児院における生活を基準にすれば、「素敵な奇麗な女の子が女の子な服装をしている」というだけでも、カオリの目には輝いて見えた。
「にゃーん」
フォウ夫は言う。
二むにゃにやにヤーン
「この方は前世であなたのおばあさんに飼われていた猫の方のミケさんです。『ひさしぶり、カオリちゃん』とミケさんはおっしゃられています」
「にゃーん」
ミケが鳴いた。
カオリは思った。
(もしかしてNNN案件?)
カオリの前世ではNNN(ねこねこネットワークという秘密組織の存在が語られた。
この組織は、「猫の暮らしには猫のしもべになるヒトを用意した方が便利である」という信念をもって猫好きの人を発掘することに務めているという。
野良猫暮らしの猫たちはNNNからの指導を受けて、猫好きの人の家なにあがりこんでくるらしい。
ミケは上機嫌な表情で親しげににカオリに語りかけた。
「にゃーにゃ―にゃにゃーにゃーにゃーにゃにゃん。にゃーにゃにゃーにゃーにゃにゃ、にゃーにゃんにゃにゃん」
カオリは焦った。
(もしや、ミケは現世では野良猫暮らしで困っていて、「前世からの縁があるはず」とあたしがロックオンされた? 今の孤児院は猫の連れ込みは厳禁だよ。「現世ではお孫さんのあなたが飼っててください、ちょうどよかった、ありがとうにゃーん」と鳴かれても困る・・・)
ミケの顔色が変わった。
「にゃーん? にゃーにゃーふにゃにゃ? うにやうにゃ、にゃにゃにゃー、にゃーごろろろろ、うにゃにゃーにゃにゃにゃー、ふにゃにゃにゃーにゃーにゃー」
フォウが通訳した。
「ミケさんはおっしゃられています。『カオリちゃん、失礼なことを考えているのでは? 別に今は行き場に困っていてカオリちゃんに頼ろうと思って押しかけてきたわけではない』と」
ちょっぴりカオリは安堵する。
「よかった、NNN案件かと思っちゃった」
フォウは言う。
「NNN案件とか言うのでしたら、あたしの知りあいで、ちょうど下僕になってくれる便利で従順なヒトたちを探している素敵な子猫の兄弟がおります。仲良し兄弟なので、いっしょにお世話するように希望します」
横から、またもやミケが語りだした。
「うにやうにゃ、にゃにゃにゃー、ふにゃにゃー、ごろろろー、にゃおおん? にゃにゃにゃー、がるるるる。にゃあにゃあにゃあにゃああん」
素早くフォウは通訳する。
「あのねえ、『現世では公爵令嬢に生まれたのに、家から叩きだされるとはどういうことなわけ? 猫を百匹くらい助けなさい』とミケさんはおっしゃっています」
カオリは溜め息をつく。
「そんなことを言われても、あたし、よくわからない間に勘当されて、孤児院に放り込まれて、もうゲッカー公爵家に関係ないから」
ミケは続ける。
「うにやうにゃ、にゃーにゃんにゃにゃん、うにやーにゃんにゃん、ふにゃーにゃんにゃーん、にゃあごにゃーごごろろろーん、なーごなーごごろごろごろにゃん」
魔族四天王っぽい設定をゴミ箱にポイ捨てしたように、フォウは通訳を続ける。
「あのですね、『カオリちゃんは転生時に最強絶対無敵チートパワーを授かったはずだ、今こそその力を使いなさい。そもそも、現世においてカオリちゃんのジョブは勇者のはず!』とミケさんはおっしゃっています」
さすがにさそこまで世の中は甘くできているまい、とカオリも疑う。
「嘘でしょ?」
当然とばかりミケはうなずいた。
「にゃあん。むにゃにゃにゃごにごにゃーにゃー、にゃおん、ころごろにゃー」
猫語の通訳をしているだけでは暇なのか、フォウは、意味もなくポーズをつくって、ビシッと右手の人差し指を突きつけた。、
「えーと、『嘘です。この世界はカオリちゃんに接待モードで設計されておりません』とミケさんはおっしゃられていますよ』




