第一話 営業第一課(中編)
古家幸子には秘密がある。彼女はつい最近まで、長年人間の生活に憧れていた「座敷わらし」であった。自分も人間になって社会生活を送ってみたいと願い、自らの力で大人の女性に生まれ変わったのであった。
そんな幸子が大手食品メーカーの営業第一課に着任してから一週間が経過すると、この営業第一課に大きな変化が起きた。
なんと、言葉の鞭を振るう芹沢課長が、突然何の脈絡もなく、部下のいない「特別ポスト」に異動することになったのだ。そして新しく、爽やかで人当たりがよいことで有名な恩田課長が営業第一課に課長として配属されることとなった。
恩田課長は、部下の意見を尊重しながら指導を行うことにより、営業第一課を成長させた。恩田課長のリーダーシップの下、営業第一課は次第にチームワークを取り戻し、職場の雰囲気も一変したのであった。
恩田課長なら部下も気兼ねなく複雑な案件を持っていったし、恩田課長も「またろくでもない案件を持ってきやがったな!」と笑い飛ばしてくれた。
元座敷わらしの幸子は、そんな新しい課長の下で、のびのびと仕事をした。
「取引先から食事に誘われちゃいました!2人だけってのも嫌なので、課長も挨拶がてら一緒に来てくれませんか?」
「新しい取引先をゴルフに誘ったら、のりのりのお返事もらっちゃいました」
古くからの取引先とも明るく楽しく仕事をしたし、新しい取引先も開拓していった。好きなことを好きなようにやってのけた。そんな天真爛漫な幸子は、取引先にもたいそう可愛がられた。
「人間って、仕事の一環だと言えばゴルフして遊べるし、接待と言いながら美味しいご飯が食べられる。面白い!」