第一話 営業第一課(前編)
ここはとある大手食品メーカーの営業第一課。海外展開する営業第二課に対し、第一課は国内向けの販売を担当している。
今日もこの営業第一課の芹沢課長は、言葉の鞭を振り回して部下たちをしごいている。
「小学生のお使いじゃないんだから、いちいち言わせんな」
「どれだけ頑張ったかは興味ない。数学を出せ。結果を出せ」
「そんなんだから君たちは、二課の連中と違って国内止まりなんだよ」
課員たちも、芹沢課長の言うことはもっともだと理解するが、どれだけ数字を出しても認めてもらえず、言葉の鞭で日々虐げられている。課内の雰囲気は険悪で、芹沢課長が喝を入れれば入れるほど、課員は精神的に追い詰められていくのであった。
そんなある日、おかっぱボブヘアの色白ですらっとした若い女性が、営業第一課の部屋に入ってきた。タイトスカートなのに歩幅は広く、5センチヒールをテンポ良くカツカツと鳴らしながら、芹沢課長の前に立った。
「本日から営業第一課でお世話になる、古家幸子です。御指導よろしくお願いします!」
「ああ、今日からだったかね。君の席は、一番入口に近い末席。あの空いている席だから。前職とか何にか勤務経験はあるの?」
「はい、以前は不動産関係の仕事をしておりました。至らぬこともあろうかと思いますが、一生懸命頑張ります!」
幸子の声が室内に元気よく響いた。