第八話 修行
入学式からちょうど一年がたったころ、俺は小学2年生になった。ところで、実の兄の蓮兄は中学受験に成功した。彼は6年間の童貞と引き換えに必ず有名私立大学に行けるそうだ。6年後まで童貞になってしまうのかは本人の努力次第だが、彼が中高一貫の男子校に行くということは女子と話すこととかが少なくなるようだ。彼は顔は悪くないし、運動ができ、頭も良いから普通の学校に行ったらモテるだろう。だから、彼もなんとかなるだろう。
さて、一年の修行の成果はすごいものだった。一から剣術を学ぶことで、転生前に身についていた悪い癖とか無駄な動きに気づけたのだ。そして、アルフォンスや俺と共に修行したさくらちゃんはものすごい成長を遂げていた。とりあえずの建前で、僕とさくらちゃんは夏の全国大会に向けて練習している。アルフォンスの考えでは、やってくる元の世界の敵に立ち向かうために戦える人を増やしたいそうだ。そこで目についたのが、さくらちゃんだった。女の子にしては体格が良く、身体能力も高かったという理由もあるのだろうが、彼の魔眼は彼女の別の才能でも見抜いたのだろう。そしてアルフォンスは彼女をスカウトをして、さくらちゃんと両親からの了承を得たというのがことの顛末だ。
そして剣道をしないのにも関わらずこのアルフォンスの家に通っている男がいる。蓮兄だ。彼は受験勉強をもうしなくて良くなったから暇だと言う。このアルフォンスの家には大量のラノベ小説や漫画があって、それ目的で彼は通っている。アルフォンスも娯楽を楽しむ性格だった。なぜ彼がこの家に好き勝手入っていいのかは俺の家族だからではないらしい。アルフォンスの魔眼は彼を大魔法使いシノンの生まれ変わりだと考えていたが、蓮兄に魔術の底知れぬ才能があるだけらしい。彼にはいつか魔法使いになって俺の戦力にさせるとアルフォンスは言っていた。
ある日の日曜日、アルフォンスは元の世界へ帰るための転移魔法陣をスクロールに書いていた。彼にもあっちの情勢を知るためやこっちの進捗を報告するとか会議に出席するとかの目的があってのことだ、かかる費用は経費で落とされるのだろう。
「アルフォンス先生、兄の蓮に魔法を教えるために魔導書を買ってきてくれないですか?」
「もちろんいいとも、僕は彼に魔法使いになってもらいたいからな。初級から聖級まで買ってくるよ」
「ありがとうございます。」
俺は転移していくアルフォンスを見届けた。
彼は転移後、まずアウル王国に向かった。
誰かわからない裏切り者に戦力の大半を削られ、第一王子と王様を殺されたアウル王国は復興に向かっていた。第二王子がみんなの思っていたよりも優秀だったようだ。第二王子の名前はレイド・ザミエル・アウル。父の名字がアウルで、母がザミエルという名字である。彼の側近であり、護衛だったのがアルフォンスだ。レイドは戦争反対派だったがその当時は発言力などなく、戦争は元国王と第一王子の独断で動いていた。第一王子は腹違いの兄弟で、頭が少し悪い兄だが、国民のみんなは真相を知らずに褒めちぎっていた。第一王子と王様を支持する人は多くて、第一王子は当然のように次期国王候補だった。しかし、2人は殺されてしまったため、次期国王はそのままレイドになって、彼は今国王代理という立場になった。当然裏切り者がわからない以上、レイドが父と兄の殺しを命令した可能性もあるためレイドは潔白を示すために裏切り者をアルフォンスに探させている。
アルフォンスが帰ってきて、早速アルフォンスとレイド国王と幹部を含む国の会議が行われた。その会議で話したことは教えてくれなかったが、会議が終わった後、アルフォンスは故郷である剣の聖地に向かった。
剣の聖地はかつての活気はおろか人間すらいなくなっていたらしい。悲しいことだ。教えてくれた先生はみんな転生後に起こった別の魔族との戦争でなくなって、今この街に残っているのは廃墟とアンデッドくらいだ。アウル王国が衰退して、魔王軍は剣の聖地を属する国と戦争で勝った結果、魔族は着実に力を取り戻し、空いた魔王の座が埋まり、封印されていた魔神も封印が解除されそうである。魔神とは魔王の上位互換のようだが魔王とは強さも権力においても格が違う。俺が生まれてからは神話に出てくるレベルで封印が続けられており、大魔法使いシノンの家系が代々封印を続けてきたのだ。だが大魔法使いシノンは現在この世界にいないのと、この封印術はシノンの家系以外知らないため誰も封印できず、この世界の人々はただただ封印が解かれるのを見るしかないのだ。とても厳しい状況である。
アルフォンスは彼の師匠と両親の墓を作って、その地を去った。
彼は帰り際に本屋に行き、約束の魔導書を買った。魔導書はもともと高いものであり、最高ランクの魔導書なら本にして重量は一キロで日本円で百万円を超えてくる。アルフォンスはもともと金持ちなので余裕で買えるようだ。
日本に帰ってくると、アルフォンスは蓮兄に魔導書をやった。
「明日から、魔術を僕が教えよう」
「!?」
小説を読んでいた蓮兄は最初は驚いたがあとから嬉しそうに喜んだ。異世界転生ものでも見ていたのだろう。
「私にも教えて欲しいわ!」
さくらちゃんも魔術と聞きつけてやってきた。魔術は才能の世界という事実はあるが、俺でも初級は使えたからやってみる価値はある。
「じゃあ、湊も魔術の勉強をしよう!」
「そうだね、湊も魔術やるよね?」
「僕も一から教えるつもりだったよ」
おのれアルフォンスめ、俺が魔術を苦手なの知っているだろうから、わざとだろ。
「僕はいいかな〜」
「いいってことはやるってことだよね」
「そういう意味じゃ…」
そして剣術の修行と並行して魔法の教室も始まった。日本語は相変わらず難しい。