第七話 剣豪
俺は小学校に入学することになった。今日は入学式だ。かつての友達と会うことができるとのことで楽しみにしている。正直幼稚園はもう1年くらい前から飽きていた。
教師たちによって体育館へと誘導されて入学式が始まった。体育館に入ってからとてつもない覇気をまとった教師がいることに気づいた。俺は目視した。おぞましさに加えて懐かしい雰囲気を持ち合わせていたその人物は頭のすみにしばらく引っかかっていた。校長の長くて中身のない話を聞き終わりそうになったとき、俺は思い出した。彼は勇者パーティーの剣豪アルフォンスであった。なぜ教師になっているのかと思ったが彼は魔王を倒した後からもともと教師であった。あの頃となんら様子が変わってないことから転生に巻き込まれずに後からこちらに転移したと推測した。そして彼は俺のクラスの担任の先生になるそうだ。それから国歌と校歌を聞き写真を撮り入学式を終えた。
担任のアルフォンスの偽名は佐藤太郎だった。この世界では不自然な銀髪は地毛であると自己紹介をしていた。この世界は転生が起こって6年経っているのだから、アルフォンスがこの世界で教師をしていてもおかしくはない。放課後、俺はアルフォンスかもしれない人と接触した。
「先生はジル・アーヴィンという人を知っていますか?」
「ああ、知ってるさ。君のことだろ」
「なんでわかるんですか?」
「俺の魔眼はあんたをジルだと言っているからだ」
やはり本物だった。彼は魔眼持ちだ。でもまだ信用はしていない。
「アルフォンスさん、なんで来たんですか?」
「話せば長くなるがいいか?」
「ああ」
どうやらあっちの世界で、王はずっと裏で操つられておりすでに殺されている。操っていたやつは勇者である俺を犯人に仕立て上げ、ギロチン台に巨大な転生魔法陣を用意して展開し、国の主要な戦力の大半を削ったようだ。俺は転生魔法陣で死ぬと仮定されていたが、操っていたやつは俺の転生が成功していると気付いたとたん、光魔術で周囲に目眩しをして魔法陣に乗り、この世界にきたのだ。そうなると、裏で操っていた裏切り者は魔法陣の近くにいた人だということだ。生き残った第2王子は裏切り者を探して殺せという命令を出した。その命令に従ったのがアルフォンスだった。話は続く
「俺の妻と子供は元気なのか?」
「君の家族は守ることができずに裏切り者の手下に殺されてしまった。すまなかった」
「なんでだよ…」
「私もできることはやったつもりだ、あと伝えないといけないことは裏切り者は君を確実に殺すためにこの世界に来ていることだ」
「マジかよ」
俺は頭を抱えた。
「じゃあ裏切り者は一体誰なんだよ」
大魔法使いシノンか大賢者パール、彼はそう答えた
確かに彼らならあの規模の転生魔法陣は使えるだろうが、俺は彼の言ってることを信じることはできなかった。そもそもこの目の前にいるアルフォンスは本物なのかまだわからない。でも救いようと言えば、裏切り者も同い年の6歳になっている、なぜなら同じ転生魔法陣で来たからだ。
もしこの話が本当ならば、俺は家族の仇を取るべきだろう。
俺は家に帰った。蓮兄は受験が近いので塾の授業が多く入ってるらしいから帰りが遅い。父も遅い。母と2人で家にいることは珍しくなかった。その日はいろいろありすぎて夜はあまり眠れなかった。
翌日になって、目が覚めると蓮兄の姿が見えなかった。どこかに散歩でも行ってるのだろうか。母さんは心配になって蓮兄を探しに行ってしまった。俺は学校があるから探すのは手伝えなかったけど俺も正直心配だ。昨日は塾で11時に帰ってきたのは知っているがそれ以降は知らなかった。今日はまだ午前授業なので早めに帰れた。家で母を待っていると、母は警察に相談していてまだ兄貴は見つかってないようだった。夕暮れになっても蓮兄は家に帰ってこない。しばらくたったあと、家に来訪者が来ていた。アルフォンスだった。彼の後ろには蓮兄がいた、蓮兄と母は泣きながらハグをした。
「佐藤先生、兄貴を届けてくれてありがとうございます。」
「魔眼を使えば人探しなど容易いから礼はいらん。それよりもジルよ、この世界に転生したお前は弱すぎる、私の下で修行をしろ」
この世界の人の前で魔眼とかジルとか言っても大丈夫なのだろうか。あと俺に対して弱すぎるって失礼じゃないのかね。兄を助けてもらったしこいつは本物のアルフォンスだと思った俺は彼の下で修行を始めた。
剣の聖地というのは、各地の強かった剣士たちが集まってたくさんの道場を一つの街に作ったのが始まりである。その街には10種類の流派の道場がある。俺が学んでいた流派は日本で言う北辰一刀流のような居合の強い流派だった。アルフォンスは二刀剣法っていう二刀流専門の流派だった。流派によって戦い方とか有利不利があるが、剣の聖地では交流戦と呼ばれる全員参加できるトーナメントみたいなのがあった。アルフォンスの強みは剣に魔力を送って剣から炎を出すことだ、原理は誰もわかっておらず彼自身も感覚でやっているそうだ。最初見たときは火花が散りすぎてアルフォンス自身が火傷していて面白かった。何よりも面白かったのは、交流戦で使うのは木刀になっているが一位候補のアルフォンスが魔力を注いで木刀を燃やして失格負けの予選敗退をしたことだ。そのときの交流戦は俺が一位だった。逆にそのときの交流戦以外全部二位ってことだ。一種類の流派で交流戦に優勝するとその流派の免許皆伝の試験が受けられる。アルフォンスと俺は2人とも免許皆伝を持つ同期であり盟友であり、ライバルだった。
少しずつ思い出が蘇ってきた。
アルフォンスと仲良くなった俺は2人でダンジョンに行った。トラップ少なめの強い魔物多めの上級者向けダンジョンだったのでこっちに分があった。俺とアルフォンスの致命的なところは方向音痴であったことだ。地図があってもうまく使えなかった俺らは一週間同じところを魔物を倒しながら進んでいた。やっと辿り着いたとき、最後の大ボスはドラゴンの類であった。もちろんドラゴンなど瞬殺だった。ダンジョン後の酒場というのはとてもいいものだった。酔った勢いで酒場にいるやつ全員に奢ってしまい自分の収支は赤字になってしまった。
翌日から、俺は学校帰りにアルフォンスの家に通うようになった。こっちの世界のアルフォンスの家はとてもでかい豪邸だった。どうしてそんなものを持っているのか聞いてみたところ、かつて持っていた純金の鎧をこの世界で売ったそうだ。元いた世界の金はこの世界の金より価値が低かった。なぜかというとダンジョンの最深部の宝の大半は金貨であり、ダンジョンを制覇していくうちに世界に存在して出回っている金の数が次第に増えっていったからだ。だから、元いた世界で使われてるレア度の高い硬貨はアルミニウムやチタンの硬貨だ。もし自由にどちらの世界も行けたら、この世界で金を売り1円玉に変えて、元いた世界で1円玉を大量に売れば、お金は無限に増やせるのだ。ただ転移魔法陣を書くための道具はとても高くて揃えるのに億はかかる、しかも使えるのが1回きりなのであまり利益にならない。
アルフォンスの家の一階は道場になっており、剣道教室を開いてるそうだ。剣の教師として暮らしていた彼にとってちょうどいい仕事だった。最初に道場に来た時に驚いたことがある。さくらちゃんも道場に通って剣道を学んでいたのだ。ちなみに道場内では名前をアルフォンスで通しているらしい。その日、アルフォンスに言われて彼女と手合わせをさせられた。3回勝負で2回勝ち勝利した。でも1回はさくらちゃんに負けてしまった。6年間のブランクもあるが、明らかに身体能力が動きたい速さや見えている速さに追いついていないのだ。全盛期の真剣を振っていた速さの三分の一の速さで竹刀を振っていた。衰えとかそういうものではない。アルフォンスは言った
「なんとか勝ったみたいだが、お前は7歳の少女に3回中1回は負けるのだ。これがお前の実力だ。」
これを聞いてもあまり悔しくなかったし、しばらく自分の剣にそこまで自身を持てていなかった。なぜなら30歳を過ぎたあたりから、育てていた一番弟子に一対一で負けている。その時から、弟子を取るのをやめて、家族を置いて、戦争が起こる直前になるまで、一人旅に出た。ある意味浮気旅行だったかもしれない。俺が返す言葉を考えているうちにアルフォンスが続けて言った。
「これからお前は私の弟子となるが、手合わせをした三上さくらはお前の姉弟子であり、お前は弟弟子だ。」
「これからよろしくね!」
さくらちゃんは嬉しそうだった。それ以来、毎日ではないが、剣道の授業と称してかつての俺の能力を取り戻す剣術の修行が始まった。最初はきついと感じたが、若さというのは強さのバフになるのだ。