第六話 お遊戯会
流れるように月日を過ごしていると俺は年中と呼ばれる身分になっていた。新しいクラスに慣れて、この幼稚園では年中と年長で別々の劇を行い発表するのだ。年中では桃太郎をやるらしい、また年長の先輩たちはシンデレラをやるらしい。どちらの物語も母親かたまに父親に読み聞かせてもらっていた。
先生はまず最初に誰が何の役をするか決めるらしい。俺はみんなの他薦で桃太郎になった。理由を聞いてみると何となく決めたって感じだ。先生は主人公をしっかりしてる人に任せたいと思っていたからピッタリだった。休み時間が始まると、さくらちゃんに会った。彼女はさっきの時間でシンデレラを他の子と取り合った結果シンデレラが2人できたらしい。
やることは単純だ。台本を覚えてセリフと物語の流れを掴み、話が終わったところで踊り始めるのだ。そもそも4、5才の子供に演技力とか求めないので俺には楽勝だった。でも周りの子はセリフなど完全に覚えられるわけないので俺はアドリブで助けられるようにしっかり練習した。
本番は近くのホールで行われた。母親と蓮兄と父方の祖父と祖母が見えた。よく見たら誰のよりもデカくて高そうなカメラを持った父がいて面白かった。
幕が上がった
おじいさんが芝刈りに行ったのとおばあさんが出てきて川で洗濯して桃を拾うまで台本通りだった。順調だ。ここに出てくる桃太郎は赤ん坊なのでまだセリフはない。
「この赤ん坊は桃太郎と名付けられ、すくすくと育ちました」
とナレーターが言った後
「僕は鬼退治に行ってきます」
初のセリフを噛まずに言えたのは良かった。よくみると傍ではさくらちゃんが俺のことを凝視してた。
吉備団子をもらい物語は進んでいく。
犬猿雉の三人はよく遊んでいる友達が演じているためスムーズに劇を進められた。
そして鬼を退治してみんなで踊って劇を終えた。
俺の前世の世界でも魔族とは別に鬼族や鬼ヶ島のようなものは実在していた。桃太郎の話みたいに人族へ略奪行為をしていたわけではなかったのだ。何なら人族と友好的であったため、鬼に対する恐怖心とかはなかった。
「すごいね、みなとくんて!」
「ありがとう」
年中と年長の控室の入れ替えのときさくらちゃんに褒められた。女の子に褒められるのはどんな男でも嬉しいものだ。
俺は家族の座ってる席の隣に座り、年長の発表を見た。
劇は良かったのだがシンデレラの2人は仲が悪すぎた。最初に仕掛けたのはさくらちゃんだった。本当はセリフを交互に言う台本だったのだがさくらちゃんは相手のセリフも言おうとして声を被せてきたのである。悪い女だ。相手の方も負けておらず、舞踏会のシーンでしれっとさくらちゃんの靴を踏んでいたのだ。ガラスの靴が可哀想だ。こっちの方も性格が悪かった。近くで見守る先生は苦笑いだった。劇が終わるまで双子シンデレラの戦いは続いていた
あとから聞いた話によると、桃太郎の鬼ヶ島の戦いで俺のチャンバラの速度だけ速すぎてカメラが俺の剣を捉えられていなかったそうだ。
劇が終わったあと家に帰って母が蓮兄の劇のビデオを見せてくれた。どうやらピーターパンの劇だった。彼の役はフック船長。彼は人見知りなので大勢の前で誰よりも緊張していたらしい。しかも蓮兄は少しチビってたと母親がバラすので兄は顔が赤くなってた。
月曜になって幼稚園へ行くと不機嫌な顔をしたさくらちゃんがいた。どうやら喧嘩は続いてるようで、ついに相手が手を出したので反撃して吹っ飛ばしたようだ。過剰防衛とは言えなかった、言ってたら俺もやられてる。先生が来て仲裁して仲直りさせようと試みていた。でもどっちも頑固なので収拾がつかなかった。先生も見るからに呆れ始めている。気づいたら喧嘩は無くなっていた。子供の喧嘩などその程度なのだろうと俺は思った。