決断
アデン王とサラサ王女は庭の散策を続けていた。
「相変わらず素敵なところですわ。我が国は寒いからこんな風に草花が育たないのです」
「褒めていただいてうれしい限りです。庭師にも伝えます。喜ぶでしょう」
そこでふとサラサ王女は気になっていることを尋ねた。
「リーサはどうしていますか?」
「リーサはこの前、体を悪くしまして・・・」
「そうなのですか。心配ですね」
「ええ。この前、ここを攻められて私がここから逃げる時、私の甲冑を着て身代わりになったのです」
「そんなことがあったのですか!」
サラサ王女は驚いた。そんな危険なことをリーサがしたとは・・・。
「幸い駆けつけてくださったハークレイ法師様に助けられたのですが・・・その後も水をかぶる願掛けをしてそれで無理をして体を壊してしまったのです」
「そうでしたか。でもリーサらしい。あの娘は王様を守るために懸命なのです」
「それはわかっています。でもそれにどうやって応えてやるべきか・・・」
するとサラサ王女は微笑んだ。
「もう答えは出ているではありませんか。王様はよくわかっておられるはず」
そう言われて背中を押されたような気になった。
「そうですね。ありがとう。王女。では私はこれで・・・」
アデン王は一礼してその場から離れて行った。その後姿を見ながらサラサ王女はつぶやいた。
「相変わらずね。アディー」
◇
リーサは部屋に戻ってベッドにもぐりこんだ。耳をふさいでもリーサを非難する声が聞こえてくる。
(もし私が王様をお慕いしていなかったら・・・)
そう考えると何もかもがうまくいったように思われた。もし自分がいなかったら、今頃は王様とサラサ王女様は結ばれていたかもしれない。それならラジア公国に攻められることはなく、トキソ国は脅かされなかった。王様が危険な目に遭うことも多くの人が傷つくこともなかったかも・・・。それにこれから先も・・・リーサはそう思った。
専横を極めた前大臣のドラスは自分が朝駆けで一番乗りになっていなくても、この地に来ていたハークレイ法師様によっていずれかは成敗されていたはず・・・そう考えると自分がしてきたことは無駄、いや、かえって害を与えてきたのかもしれない。
(それならどうしたらいいの? 私は・・・)
リーサは一晩中考えた。それでやっと結論が出た。そうなると頭の中の雑音は消えた。
◇
次の日の朝、マモリが部屋を訪ねて来た。
「どうしたの? こんなに早く。王様のお世話係の仕事があるのでしょ」
「それが急に王様がリーサに会いたいって。バラの花壇の前に来てほしいとのことです!」
「えっ! どうして・・・」
するとマモリは姿勢を正した。
「えっへん! 王様が求婚されるのです。リーサ王妃様!」
「ええっ!」
急な話にリーサはびっくりした。
「本当は秘密だって言われたんだけど、いきなりのことで気が動転しないように教えてあげた方がいいかなって。がんばってきてね!」
マモリはうれしそうに言った。
(急な話だけど・・・今がいい機会かも・・・)
リーサは決意を心に秘めて部屋を出て行った。




