居場所
リーサはすっかり元気になり、女官室に向かった。イルマ女官長に頼んで元の仕事に戻してもらおうと思ったのだ。もう体調に不安はない。いくらでも走れそうなほどだった。
だが女官室に入ったとたん、周りの視線に違和感を覚えた。なにかよそよそしいような・・・。それにイルマ女官長はわざわざ立ち上がって一礼してからリーサに尋ねた。
「これはリーサ様。何か御用でしょうか?」
「女官長様。そんな言い方はおやめください。前のようにリーサと呼んでください」
「いえ、若様の大切な方を呼び捨てにはできません」
どうもリーサがお妃になると思って言葉遣いを改めたようだ。
「そんなんじゃありません。とにかく『様』はやめてください」
「ではわかりました。リーサさんと呼ばせていただきます。リーサさん。今日はどうしましたか?」
やはりよそよそしい言い方だった。
「私はすっかり元気になりましたからお仕事に戻していただこうと思いまして・・・」
「それはいけません。お世話係はマモリがしっかりやっていますのでご安心ください」
「しかし何か仕事をしなければ・・・」
リーサがそう言うとイルマ女官長はしばらく考えてやっと思いついた。
「わかりました。ヘルゲ。リーサさんを学問所に」
「はい」
古株のヘルゲがそばに来た。
「女官長様。私は何を?」
「学んでください。様々なことを。教養を身に着けていただくためです。このヘルゲはゼロクロスの大学で学問を修めました。彼女から教わること。それがリーサさんのお仕事です」
イルマ女官長はそう言った。リーサは納得いかなかった。それではまるで厄介払いではないかと。
「それではあまりにも・・・」
「いいえ、これはリーサさんが最も必要とされることです。では、ヘルゲ。お連れするのです」
イルマ女官長はきっぱりと言った。それでリーサは王宮の学問所で学ぶことになった。
部屋から出てみるといろんなことがリーサの耳に入ってきた。王様と自分のこともそうだが、多くは戦についての不安だった。
「いつかまたラジア公国が攻めてくるかも」
「あんなことはもうごめんだ!」
「何とか平和にならないか」
「評議会は当てにならないよ。自分たちでなんとかしないと」
「ちゃんと和平ができたらいいのだけど」
「そうだな。友好関係を維持出来たらこんなことにならないかもな」
リーサもそれは同感だった。このトキソ国の平和が保たれるのは何よりも大切なことだと。もう2度とあのようなことは起こってほしくない・・・
そこでもう一つ、うわさを聞いた。近々ラジア公国から友好のための大使が派遣されてくるという。
(もしうまくいけば平和になる。いらっしゃる大使がいい人だといいけれど・・・)
リーサはそう思っていた。




