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密議

 ハークレイ法師はガンジによって奥の間に通された。法師がここに来たのは極秘の使命を帯びているからだと思われた。知らせを受けてアデン王とレイダ公爵がすぐにその部屋に駆けつけた。


「ハークレイ法師様。ようこそ我が国に」

「これはアデン王にレイダ公爵。急なことで済まぬな。この年寄りはせっかちでな」


 ハークレイ法師はいつもの旅の姿。正体を隠してまたこの地に来たのだ。


「この度は一体何事でしょうか?」

「うむ。あなた方の考えを聞きたいと思いましてな」

「それはどのようなことでしょうか?」

「それはな・・・」


 ハークレイ法師は話し出した。


「ラジア公国、いやプラクト大公によるトキソ国への侵略計画はとん挫した。だがこの両国に大きなしこりは残っておる。評議会としてはこれを何とかしたいと考えておる」

「お言葉ですが時期尚早ではないでしょうか? まだ戦いの傷も癒えていないのに・・・」


 レイダ公爵が言った。先のことで王宮の者や騎士、兵士のみならず、多くの民からもラジア公国を恨む声がまだ大きい。


「いや、だからこそだ。時間が過ぎればその恨みの声はさらに大きくなるに違いない。ここは早期に友好関係を作ってみたらどうか。さすればこの国も安定しよう」


 ハークレイ法師の意見はもっともなことだった。だが完全にラジア公国を信用するわけにもいかない。アデン王が口を開いた。


「法師様。私どもはいかなることをすればよろしいのでしょうか?」

「ラジア公国からの友好の大使を受け入れてほしい。それだけじゃ。条件は特につけぬ」

「そういうことであれば受け入れられます。公爵はどうだ?」


 アデン王はレイダ公爵の方を見た。


「私にも異存はございません。特に取り決めなどなければ」

「そうか。受け入れてくれるか。それはよかった」


 ハークレイ法師は安堵していた。レイダ公爵が尋ねた。


「ところでその大使とはどのような方が来られるのでしょうか?」


 それは重要なことだった。こじれた2国間を友好に導くには、その大使にかなりの政治的な手腕がいる。生半可な人物では務まらない。それにトキソ国側にしてもこれからのことを協議する上で、その人物について事前に知って準備しておく必要がある。だがハークレイ法師は意外にも首を横に振った。。


「それは秘密じゃ」

「秘密?」

「そうじゃ。そのうちわかる」


 ハークレイ法師はそう言うだけだった。その様子から、レイダ公爵はラジア公国の重臣、それもかなりの大物・・・もしかするとヨーク総長かもしれないと思った。

 一方、アデン王は外交官の肩書を持つカイアミかもしれぬと考えた。それなら秘密にしておく必要がある。方々から恨みを買っているので・・・。

 だが誰であろうと友好のために来る大使は受け入れねばならないとアデン王は思った。


「ハークレイ法師様が推挙された方なら・・私は信用します」


 アデン王は言った。


「さあ、そうと決まれば善は急げじゃ! スザク!」


 ハークレイ法師が呼ぶと、すっとスザクが現れて片膝をついてひかえていた。


「ご用でしょうか?」

「すまぬがゼロクロスに飛んでタイノス事務局長に伝言してくれ。すぐに進めよとな。」

「はっ!」


 するとスザクの姿は急に消えた。その代わりに空に朱色の鳥が翼をはためかせて飛んでいた。


「これでよし。儂も同席させてもらうぞ。それまでこの王宮に滞在させてもらうが、よいかの?」

「それはもちろんでございます」

「それはすまぬ。しかし目立たぬようにな。儂はここでは旅の方術師のライリーじゃ。ここの隅の部屋でよいからな」

「わかりました。すぐにご用意します」


 レイダ公爵が部屋を出て行った。いっしょにアデン王も退室しようとしたが、


「王様はもう少し・・・話があるゆえ。」


 とハークレイ法師がひきとめた。


「私にお話とは?」

「儂の見るところ王は迷っておられる」

「えっ! 何をでございますか?」

「それは自分自身がよくわかっているであろう。だが王よ。このままでよいというわけにはいかぬ。決断しなければならない時が来る。いや決断したときには遅かったということもある」


 アデン王はハークレイ法師の言うことがわからなかった。決断すべきこととは・・・。


「法師様。私にはわかりかねます」

「そうか・・・では仕方があるまい。これも神が定めた道かもしれぬ」


 ハークレイ法師はため息をついた。


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