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突然の来訪者

 しばらく平穏な日々が続いた。アデン王は騎士や兵士をねぎらって褒美を与え、それぞれの土地に帰した。そして王宮には避難していた女官や役人が戻ってきた。国境警備隊も再編され、マスカが総隊長として改めて派遣された。町や村、森や平原に戦の爪跡を残すも元に戻りつつあり、少しずつ戦のあとを払しょくしていった。


 王宮では相変わらずアデン王は政務に多忙であった。それを支えるお世話係はリーサではなかった。新たにマモリが任命された。彼女はその隠れた能力を発揮してアデン王の仕事を見事にサポートしていた。レイダ公爵やガンジも公務に忙しくあちこち飛び回り、すべてが以前の王宮の姿に戻ろうとしていた。


 だがリーサだけはまだ療養していた。願掛けの苦行で体を壊し、礼拝堂からアデン王直々に抱きかかえられてこの部屋のベッドに寝かされた。そこはかつての王妃の部屋、いわゆる「王妃の間」だった。アデン王の母が亡くなってからそのままになっていた。きらびやかな装飾の施された部屋に華美な家具が配置され、ベッドもまた極上だった。そしてその窓からは美しい庭が見渡せた。


(このようなところに私ごときがいるのはよくない)


 目覚めたリーサは非常に恐縮してそこを出ようとした。だがアデン王が許さなかった。「自分の最も大切な人にここにいて欲しい」と。そう言われるとリーサもそれに甘えて、ここで体を癒すことにした。


 そのことが周囲に知られ、リーサに接する者の態度が変わった。彼女が王妃になるといううわさ話が広まったからだ。イルマ女官長は最初はいい顔をしなかったが、それまでのリーサの活躍を聞いてしぶしぶ納得したようだ。「若様」がそう思われるのなら仕方がないと・・・。

 そこにたびたび見舞いに来るマモリだけは以前と態度を変えず、そのことを喜んでくれた。


「お姉さんが王妃になられるなんて夢のよう・・・」

「ちょっと! 違うのよ。王様のお計らいでここで病気を治しているだけ」

「いいのよ。みんなわかっているから。安心してね」


 だが肝心のアデン王はあまり訪れなかった。政務に多忙なのか、自分のことを忘れてしまったのか・・・それがリーサには少し寂しかった。


 ◇


 それからしばらくしてのことだった。その日の門番はセイジとソージだった。彼らは新たに雇われて王宮の一員になった。


「不審者は誰も入れるなっていうことだ」

「そうだな。このお役目は重要だからな」


 2人が緊張して門の前に立っていると一人の旅の老人が歩いてきた。そして王宮の門から中に入ろうとする。


「こらこら! じじい! 勝手に中に入ってはならぬ」

「これはすまぬ。王様に用事があるのだがな」


 老人は微笑みながら言った。


「何の用だ? 王様はお前なんぞにはお会いにならん!」

「ゼロクロスから来た方術師のライリーと言えばわかる。取り次いでくだされ」

「ならぬ! ならぬ! 帰れ!」


 セイジとソウジは思った。


(不審者だ! いや頭のおかしいじいさんかも。とにかくこんな奴は追い返した方がいい)


「どうしても取り次いでくだされぬのか?」

「ああ、そうだ! 帰れ! 帰れ!」


 そこにガンジが通りかかった。門前で押し問答しているのを聞いてそばに来た。どうも新人の門番が老人相手に乱暴な物言いをしているようである。


「これ! ぞんざいな口を利くな! 相手はご老人だ」


 ガンジは門番にそう注意しながら老人を見た。老人はガンジを見てにっこりと微笑んだ。


「あっ! これはとんだご無礼を!」


 ガンジは慌てふためいてひざまずいた。セイジとソウジは首をかしげて言った。


「執行官様。いかがなさいましたか?」

「これ! お前たちもひざまずけ! このお方はハークレイ法師様だ!」

「ひえっ!」


 セイジとソージはあわててひざまずいて頭を深く下げた。


「ど、どうか・・・お、お許しを・・・」

「これこれ。そんなにかしこまるでない。儂はただの方術師のライリー。王様にお会いしに来たのだ。それも内密にな」


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