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迎え

 ラジア公国軍を追い返したことはすぐに王宮に知らされた。


「・・・ということでございます。すぐにこちらにお戻りになります」

「わかった。皆でお出迎えする。しかしよかった。たいした戦にもならずにラジア公国の軍を追い払ったのだから・・・」


 ガンジはほっとしていた。だがぼやぼやしてはいられない。お出迎えの準備をしなければと。


「戦は終わった。ラジア公国軍は引き上げていった。もうすぐ王様が戻られる。準備せよ」


 王宮に残っていた役人に伝えた。すると彼らは兵士たちをはじめ、あちこちに触れ回った。


「勝ったぞ! ラジア公国軍は逃げて行ったぞ!」


 すぐにこのことが広まり、王宮内は戦勝ムードで沸き立った。


 それを礼拝堂にいたリーサも聞いた。彼女は百回の礼拝の願掛けを終えて祭壇の前でぐったりとなっていた。


(王様。ご無事なのですね。よかった・・・)


 門でお出迎えしたいが、冷え切った体はもはやいうことを聞かない。ただリーサは神に感謝の祈りをささげた。


「神様! ありがとうございます・・・」



 やがてアデン王が兵を連れて王宮に戻ってきた。あの強大なラジア公国の軍をはねのけたのだから、これはもう凱旋である。


「王様のお帰りだ!」


 ジューニ騎士団長が王宮に向かって大声を上げた。王宮の留守を預かっていたガンジが先頭になって出迎えた。


「王様。よく無事でお帰りになりました。我ら一同、お慶びを申し上げます」

「皆、ご苦労だった。皆の働きで今回の危機を乗り切ることができた。礼を言う」

「ははぁー」


 そこには王宮を守る騎士や兵士、そして最後まで残った女官が並んでいた。だがリーサの姿はなかった。アデン王はガンジのそばに来てそっと聞いた。


「リーサはいかがした?」

「それが、あの・・・」


 ガンジは遠くに見える礼拝堂を指さした。


 ◇


 リーサは暗く静まり返った礼拝堂で神に感謝を伝えていた。するとその扉がガタンと開いた。


「リーサ!」


 自分を呼ぶ声は紛れもなく王様のものだった。


「王様!」


 リーサは振り返った。確かにアデン王が扉の先に立っていた。


「王様。ご無事で・・・」


 動けなかったリーサは何とか立ち上がり、すぐにそのそばまで駆けて行った。


「リーサ! そなたのおかげで私はここに戻ってくることができた」

「王様・・・」


 リーサはうれしかった。だがその体は立っていることさえ難しかった。彼女の体がゆれて床に倒れ込もうとしていた。それをアデン王ががっちり受け止めた。


「王様・・・」

「こんな無理をして・・・心配させよって・・・」


 アデン王はリーサが願掛けの苦行をしたことを聞かされていた。こんなになるまで自分の身を案じてくれた・・・いや自分の身代わりとなって死のうともした。そんなリーサがこの上なく愛しく感じていた。


「リーサよ!」


 アデン王はリーサを抱きしめた。リーサは驚いたが、そのまま王様の胸に顔をうずめた。


「そなたをもう放しはしない。ずっとそばにいるのだ!」

「王様・・・」


 リーサはこの上なく幸せな気分になった。気が遠くなっているにもかかわらず・・・・ただ礼拝堂の鐘が鳴っていたような気がしていた。


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