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ラジア公国軍襲来

 ローデン高原には霧が出ていた。視界が悪く、遠くまで見通せない。トキソ国の軍は陣を敷いてここで迎え撃とうとラジア公国の軍が姿を現すのを待っていた。

 だがハークレイ法師には霧の向こうが見えていた。ラジア公国の大軍が静かに迫っていることを・・・。


「王よ。いよいよ来ましたぞ」

「えっ! まだ何も見えませんが・・・」

「いや、もう間近まで来ておる」

「それなら物見の兵を出しましょう」

「いや、それには及ばず。儂が先に立ちましょう」


 ハークレイ法師はそう言うと馬を進ませた。その後には彼のしもべであるキリン、ビャッコ、スザク、ゲンブ、セイリュウが続いた。霧は少しずつ晴れ、次第にローデン高原が見渡せるようになった。すると前方の大軍の姿が浮かび上がった。そこでハークレイ法師は馬を止めた。


 一方、ラジア公国軍の前衛は、霧が晴れてくるのと同時に馬に乗る老人とそばにいる5人の姿を認めた。そしてそれはすぐにプラクト大公にもたらされた。


「やはり真っ先に出て来おったか! 儂が相手をする。作戦通り、あの者たちを前衛に出しておけ!」


 プラクト大公はニヤリと笑うと馬に乗って前に出た。確かに馬に乗った老人がいる。戦場の真ん中で相対する2人・・・それはまるで示し合わせたかのようであった。


「久しぶりじゃな。プラクト大公!」

「おう! ハークレイ。やはり貴様が出て来たな」


 お互い距離を取ってにらんでいる。


「軍を返せ! トキソ国から出て行くのじゃ。そうしなければ評議会は黙っておらぬぞ!」

「ふふふ。力のない評議会など取るに足らんわ! 儂が思うようにこのメカラス連邦を支配してやるわ!」


 プラクト大公は不敵な笑みを浮かべた。そして言葉を続けた。


「さあ! どけ! どかぬとこの大軍で踏み潰していくぞ!」

「大公! お前さんの思う通りにはならぬ。儂がいる限り!」

「ほほう! 貴様が? おもしろい。見せてもらおうか」


 恐れを知らぬプラクト大公はあくまでも強行するつもりである。するとハークレイ法師の前にキリン、ビャッコ、スザク、ゲンブ、セイリュウが並んだ。


「ふふふ。これはおもしろい。貴様のしもべが勢ぞろいというわけか。ではこちらも。出て参れ!」


 すると黒装束の男たちの一団が現れた。それぞれが魔法のつえを持っている。


「魔法使いか!」

「ただの魔法使いではない。我が国の誇る黒魔術だ! それ! ハークレイ法師に見せて差し上げろ!」


 するとその中から5人の黒魔術師が前に出た。それぞれが呪文を唱えると黒い雲が現れ、稲妻が落ちた。すると空中には巨大な物体が浮かび上がっていた。


「これは!」

「ふふふ。驚いただろう! とくと見るがいい!」


 空中には5体の召喚獣が浮かんでいた。冥界の三魔犬ケルベロス、九つの頭を持つヒドラ、巨大な怪魚クラーケン、炎を吐くサラマンダー、獅子の胴体にワシの頭と翼をもつグリフォン・・・いずれもが強力で凶暴な奴だ。魔法使いが一声かければ、すぐに飛び出してくるだろう。

 さすがのキリンたちも緊張してそれを見ていた。まともに戦ったらただでは済まぬ連中だと・・・。ハークレイ法師にもそれはわかっているようだった。


「そのようなものを呼び出す術があったのか・・・」

「ふふふ。それだけではない。貴様がいくら方術を使おうと、こちらの魔法使いが黒魔術で封じることができる。貴様がいるからと言って優位には立てぬぞ」


 大口をたたくだけあってプラクト大公は準備を十分にしてきたのだった。何度もハークレイ法師に煮え湯を飲まされた経験から・・・。


「後は我が軍が数に物を言わせて踏み潰すのみ。覚悟せよ。ハークレイ! はっはっは!」


 プラクト大公の笑い声が高らかにローデン平原に響き渡った。ハークレイ法師は黙ってプラクト大公をにらみつけるだけだった。それを離れたところからアデン王はじっと事の成り行きを見守っていた。傍らにいるジューニ騎士団長やマスカは決死の覚悟で戦いに臨もうとしているが・・・。

 目の前にはラジア公国の大軍に召喚獣、そして黒魔術師の集団・・・もはやハークレイ法師に打つ手はないのだろうか?

 いよいよ決戦の時は近づいていた。


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