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本物

 先頭を行くジューニ騎士団長は急に前方に異変を感じた。それですぐに手を挙げて、そこで一行は停止した。


「どうした?」

「何かが来ます!」


 すると前方の草木の間から兵が現れた。剣を抜いて一行を襲おうとしている。ジューニ騎士団長が声を上げた。


「何者だ?」


 するとマスカが道に出てきた。


「国境の守備隊隊長をしていたムスカと申すもの。アデン王とお見受けいたしました。この国のため、お命を申し受けます」

「マスカ! どうしてお前が!」


 アデン王が声を上げた。


「ハークレイ法師様からの命令でございます。困窮する民のためご覚悟ください!」


 マスカは兵とともにじりじりと一行に迫る。するとその後方にもタカロに率いられた兵が現れて道をふさいだ。アデン王一行は挟み撃ちにされてしまった。

 だが左は緩やかな崖になっている。下りられないことはない。ジューニ騎士団長がアデン王に言った。


「道はふさがれました。崖を降りましょう!」


 アデン王たちは左の崖を下った。転がって落ちていく者もいたが、ほとんどの者が生えている木々につかまりながら無事に下りて行くことができた。

 だがそこは逃げることのできない川原だった。山々から流れ出た水が大きな川となり、その激流が一行をそこで足止めさせたのだ。


「追え! 追え!」


 マスカが叫んだ。ここで逃がしてはならぬと。反逆軍の兵士たちがアデン王を追って下りて行った。


「狙うはアデン王の首のみ! 行け!」


 とマスカが叫べば、


「我が身を挺してでも王様を守れ!」


 とジューニ騎士団長が大声を上げた。お互いの兵士たちが剣を抜いて相手を倒そうと向かっていく。それぞれの戦意は高い。一歩も引かぬと必死になって戦っている。

 だが反逆軍の方が数は多かった。アデン王の兵士は徐々に押されていき、一人、また一人と倒されていった。


(もはやこれまで・・・)


 アデン王は死を覚悟した。こうなれば自ら敵に斬り込んで死のうと決心して、腰の剣に手をかけた。その時だった。

 木々の間を抜けて黄色の大きな獣が飛び込んできた。それは反逆軍の兵士を跳ね飛ばしていった。


「あれは・・・幻獣の麒麟か」


 マスカはそう呟いた。彼は見たことはなかったがその存在を聞いたことがあった。するとその幻獣は人の姿に形を変えた。黄色い服を着た精悍な男である。兵の間に割って入り、突きや蹴りで次々に倒していく。

 すると今度は道からは白い虎のような大きな獣が吠えながら下りてきた。


「今度は白虎か!」


 その幻獣も人の姿に変わった。白い衣に背中に2本の剣を差している。それを抜いて兵たちを平打ちにして倒していく。

 また空からは鎖を巻き付けた青い龍が現れた。それは地上に降り立つと少年の姿となった。鎖を縦横無尽に振り回して兵をはね飛ばしていく。

 それと同時に川からは蛇を巻き付けた巨大な黒い亀のような獣も現れた。それは岸に上がると屈強な大男に姿を変えた。その者は兵を次々に投げ飛ばしていく。


「青龍に玄武・・・これは一体・・・」


 マスカは茫然とした。目の前で見たものがまだ信じられないこともあるが、その者たちがアデン王を守ろうと兵を次々に倒している。


「なぜアデン王の味方をする? どうして・・・」


 正義は自分にあると思っていたマスカは、神の使いともいえる幻獣がアデン王を守ろうとしていることに茫然としていた。それは反逆軍の兵士も同じだった。

 その4人が戦いに加わり、形勢は逆転した。襲撃に来た兵士たちはアデン王を弑すどころか、全滅しそうである。


「こうなれば我が手で王の首を!」


 マスカは剣を抜いて自らアデン王に向かっていった。キリンやビャッコがそれを阻止しようとするが。それをうまくすり抜けた。マスカは刺し違えてでもアデン王を討ち取ろうと決意していた。


「王様! お覚悟を!」


 マスカがアデン王の正面に立った。だがそこに馬が一頭、駆けてくる音が聞こえた。それは道からそのまま崖を駆け下りてきていた。見れば乗っているのは白髪で白いひげの老人である。その馬はマスカの前に立ちふさがるかのように止まった。


「何者だ?」


 マスカが尋ねた。彼はその老人がただ者ではないことだけは感じていた。ハークレイ法師とは知らずに・・・。


「戦いを止めよ! この争いには何の意味もない!」


 馬から降りたハークレイ法師はマスカの前に立って言った。


「何の意味もないとはどういうことか! 我々はいやしくもハークレイ法師様の命を受けている。これがその証だ!」


 マスカは懐から書状を取り出して掲げた。これには何人もひれ伏すだろうと・・・。


「それは偽物じゃ」


 ハークレイ法師はきっぱりと言った。マスカはそれを聞いて怒った。


「これが偽物だと! 罰当たりめ! どうしてそんなことが言える!」

「それは儂がハークレイだからじゃ」

「なに! ま、まさか・・・」


 マスカはその老人の強力なオーラを感じていたものの、まだ信じられなかった。するとアデン王が前に出て来て大声を上げた。


「下がれ! 無礼者め! こちらのお方は稀代の方術師にして、評議会最高顧問のハークレイ法師様にあらせられるぞ! 下がれ! 下がれ!」


 マスカはそばに駆け寄ってきたタカロの方を見た。彼は2年前にハークレイ法師の顔を見ている。その彼は震えていた。


「マ、マスカ様。本物のハークレイ法師様です!」


 タカロはその場に崩れるように膝をついて頭を下げた。


「本当にハークレイ法師様だったとは・・・」


 こうなったらマスカも信じざるを得ない。剣をしまって膝をつき、両手を地面について頭を下げた。


「あのお方がハークレイ法師様!」「えっ! 本当に!」


 双方の兵士たちはあわてて剣をしまい、すぐにその場にひざまずいた。その場は静かになり、戦いはようやく収まった。


 その一部始終を離れたところからカイアミが見ていた。企みが崩れ、すべて失敗に終わったことを知った。彼は舌打ちしながらつぶやいた。


「こんなところにハークレイが乗り込んでくるとは・・・。こうなったら大公様に・・・」


 その場から逃げ去ろうとした。だがその前に立ちふさがる者がいた。


「どこに行くんだ? 逃がしはしねえぜ!」


 それはキリンだった。


「どけ!」


 カイアミは剣を抜いて斬りかかった。だがキリンは軽くいなしてカイアミに当て身を入れた。


「うっ!」


 腹を押さえるカイアミの手を後ろに回して捻り上げた。


「いててっ!」

「一緒に来てもらうぜ!」


 キリンはそのままカイアミを引っ立てて行った。

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