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演説

 グラチ王城には多くの兵士が集まった。その数、三万。その整然と並ぶ光景は威容を放っていた。そこにプラクト大公が姿を現した。彼は壇上に上がると兵士に訴えた。


「皆の者! 隣国トキソ国にアデン王に反逆する者たちが現れた。奴らはあろうことか、王を弑し、その座に着こうとしている。さらに我が国をも侵そうと考えている。これは我が国への挑戦だ。我らは正義のためこれら一党を倒し、トキソ国の秩序を回復させねばならない!」


 すると兵士たちから「おう!」という声があがった。プラクト大公はさらに続ける。


「我らには神の守護がついている。共に戦い、勝利をつかみ取ろうではないか! ラジア公国万歳!」


 すると兵士たちはさらに興奮した。


「ラジア公国万歳!」「ラジア公国万歳!」「ラジア公国万歳!」


 グラチ城は大きな歓声に包まれた。プラクト大公は笑顔で両手を振りながら壇から降りてきた。


「大公様。相変わらず見事な演説でございました」


 腹心のヨーク総長が声をかけた。


「ふふん。群衆を操るのはたやすい。あとはトキソ国に乗り込むだけだ。状況はどうなっておる?」

「多分、今頃はドラスらが王宮に攻め入ったころでしょう」

「奴らが何もかもやってくれる。我らは後から出て行ってすべてをいただくのみだな」

「はい。しかしハークレイ法師の動きが・・・」


 ゼロクロスでハークレイ法師の動きを探っていたが、また行方が分からなくなったという報告がヨーク総長のもとにもたらされていた。それが彼にとって気がかりだった。


「ハークレイなど・・・。奴が出て来ても対策はできておるわ! 今度ばかりは儂の勝ちのようだな」


 プラクト大公はニヤリと笑った。


 ◇


 マスカは王都を遠くからぐるりと包囲するだけで反逆軍の進軍を止めていた。彼からは森を越えて王都が遠くに見えていた。その中心に王宮があるはず。一刻も早く王都に入り、王宮を攻めたいのだが、カイアミからの許可は下りない。


「いつまで待ったらいいのか・・・」


 マスカは焦っていた。そんな時、偵察の者たちから報告が入った。


「王宮が何者かによって攻められたようです」

「なんだと! どこの者だ?」

「それはわかりません。王宮は大混乱になっております」

「それでアデン王は? 何かわかっているのか?」

「今のところわかりません」


 その報告を聞いてマスカは腕を組んで考えた。


(何者かが我らと同じようにアデン王を弑そうとしている。一体、誰が? それにアデン王は?)


 わからないことだらけだった。副官のタカロもそれは同じだった。


「隊長。他にも偵察の兵がまた戻ってくるでしょう。何かつかんでくるかもしれません」

「うむ。そうだな。すぐに出陣できるよう、準備はしておけ」


 おおっぴらに動けない以上、それしかできることはない。だがほどなくして別の偵察兵が戻ってきた。


「カール村付近の森を歩いている人影をいくつも見ました」

「どれくらいか?」

「十数名といったところでしょうか」


 それでマスカはピンときた。


(アデン王が王宮を逃れて落ち延びようとしている!)


 それならこの機を逃すことはできない。マスカは決意した。


「すぐにそこに向かう。本部の護衛の兵だけでよい! すぐに行くぞ!」

「それでは少なすぎでは?」


 タカロがそう言ったが、マスカは首を横に振った。


「50名ほどはおろう。それで十分だ。早く捕捉せねば逃げられてしまう!」

「それならば私も行きます。アデン王の顔を知っていますから」


 タカロも共に行くことになった。それをどこから聞きつけたのであろうか、どこからともなくカイアミが現れ、その一行に加わっていた。


「マスカ殿。このような大事、私に一言、言っていただきたい!」

「いや、まだはっきりアデン王がいる確証がないからな」

「いいえ。あなたの勘は当たっておりましょう」


 カイアミはニヤリと笑った。その不気味さにタカロは身震いしていた。



 マスカたちは馬を走らせた。すると遠くにカール村への道を進む一行が見えた。


「あれがそうか!」


 マスカたちはそこで馬から降り、草木に隠れながらその一行に近づいた。


「タカロ。アデン王がいるのか?」


 マスカは尋ねた。タカロはじっとその一行を見て、そこにアデン王の姿を認めた。


「アデン王に間違いありません!」

「うむ。これぞ天祐! すぐに襲撃をかける。狙うはアデン王の首一つ。兵を半分に分けて前からは私が、後ろからはタカロが指揮を執って挟み撃ちにする。さあ、行くぞ!」


 マスカは兵を率いて前へ、タカロは兵とともに後ろに回り込んだ。


「面白いものが見られそうだ! フフフ」


 カイアミは不気味に笑いながらその場にとどまっていた。


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