思い
なんと斬られたのはカーラとスギノだった。彼女らは恨めしそうにワージの方を向いた。
「ど、どうして・・・」
「この女狐め! お前たちの役目は終わった。ここで安心して眠るがいい」
「うっ! ち、畜生!」
カーラとスギノは血を流してその場に倒れた。その血はリーサの方にも流れた。
「なんてことを・・・」
リーサは驚きのあまり茫然としていた。
ドラスがリーサの前に来た。そしてその目を見ながら、
「お前は王様を逃がそうとしてこんなことをしたのだな。感心な娘だ。儂はお前のような者を殺したくない。だからどうだ? アデン王のいる場所を教えてくれたらお前を許そう。どうかな?」
猫なで声を出してリーサに問うた。だがリーサはドラスをにらむだけで何も言わない。
「儂は王を捕らえるだけだ。それ以上のことはせぬ。だが他の者ではそうはいくまい。お前が言えば王を殺さずにすむのだ」
それを聞いてリーサは(嘘!)と思った。ドラスこそが王様を弑したいのだろうと。
「さっさとお答えするのだ! お前がこの2人のようになりたくなかったらな!」
ワージが横から威嚇するように言った。だがリーサは横を向いて答えない。じっと固く口を閉ざしている。
「そうか。それは残念だ。ではお前もあの2人の後を追えばいい!」
ドラスがそう言い放って下がった。横にいたミクラスが剣を振り上げた。それで今度こそ首をはねようと・・・。リーサは目を閉じて心の中でアデン王に話しかけていた。
(王様! さようなら! リーサは星となって愛するあなたをずっと見守ります・・・)
◇
アデン王一行は王宮の秘密の抜け穴を通って外に出た。従うのはジューニ騎士団長以下十数名の兵士のみ。兜や甲冑を脱ぎ捨て身軽になって森の細道を進んで行く。
「この森を抜けるとカール村に着きます。そこに知り合いの者がおります。そこで休んでからカウス地方に向かいましょう」
ジューニ騎士団長はこの近くの村の出身である。この付近の地理に明るい。アデン王は「うむ」とうなずいたが、その心の中では別のことが支配していた。
(リーサは・・・リーサは無事に敵から逃げおおせたのであろうか・・・)
リーサは重い甲冑を着て、確かに朝駆けで一番乗りを勝ち取った。だがそれは敵兵から逃げるのとはわけが違う。まっすぐ道を走るのではなく、どこからでも現れる敵兵から身を隠しながら逃げなければならない。「後から必ず追いつきます」と言っていたが、何度も何度も振り返ったがリーサの姿は見えない。
(あのようなことを許すのではなかった・・・)
リーサは自分の身代わりとして王家の兜と甲冑を身に着けた。それは自分の身代わりになって死を選ぶということではなかったか・・・アデン王は深く後悔した。
だが今更、王宮に戻るわけにはいかない。この国のために自分は生き続けなければならない。ラジア公国の侵略に対抗するために・・・。
(私は必ず再起する! この国のために命をささげた者のために。私に仕えてきた者のために。そしてリーサのために・・・)
アデン王は決意を新たにしていた。




