包囲
ついにドラスも外に出てきた。走り回って逃げる甲冑姿のリーサを見て唖然とした。多くの兵士たちが追いかけているが、到底追いつけない。それに息が続かなくなって止まって休んでいる者もいる。このままでは埒が明かないとみたドラスはワージに言った。
「とにかく包囲して逃げ場をなくせ! いくら早くても囲んでしまったら逃げられぬ」
それを聞いてワージが兵士たちに指示を与えた。
「お前たちは散開して向こうから、そこの者はこちらから・・・」
包囲の輪を作ってきた。
(いよいよ相手が本気を出してきた。でもまだ捕まるわけにはいかない! 走り続けてやる!)
一定のリズムで走る朝駆けとは違い、走りを早めたり緩めたりしていたので、さすがのリーサも少し息が切れてきていた。それに包囲の輪ができそうになれば全力で走ってそこから逃げ出さねばならない。
兵士たちがリーサを包囲しては破られ、また包囲しては破られ・・・何度も繰り返した。だがそれは着実にリーサの体力を奪っていった。脚が鉛のように重くなり、鼓動が早くなって息が切れてきていた。
(あともう少ししか走れない・・・)
それでもリーサはあきらめずに走ろうと思った。
(王様! リーサは最後までがんばります! あなたのために・・・)
だがすでに多くの兵士の囲まれてしまった。それに王宮の隅の方に追いやられてしまった。逃げようとしても王宮の高い壁が阻止する。リーサは焦り、それが敵にもわかったようだ。
「王は焦っておるぞ! 少しずつ包囲の輪を狭めればよい。少しずつゆっくりとな・・・」
ワージが兵士たちに指示して包囲の輪を少しずつ狭めていった。もうリーサに逃げ場はない。
(もうここまでか・・・)
リーサは辺りを見渡したがもうどうにもならない状況を悟った。
「王よ! 観念なされよ! それ!」
ワージの合図でミクラスが包囲の輪の中に入り、まるで鶏でもつかまえるかのように両手を広げてリーサに近づいた。そして一気にわっと抑えにかかった。
(誰か・・・誰か、助けて!)
だが声を出すわけにはいかない。心の中で叫んでいた。でも誰も来ないだろうということはリーサにはわかっていた。
「おとなしくされよ! 見苦しいですぞ!」
ワージが声をかけた。だがリーサは声もたてずにひどく暴れた。だがやがて他の兵士も加わってがっちりと組み敷かれた。そして両腕をつかまれたまま前に向けられた。そこにドラスが満足げにやって来た。
「王よ! もう逃げられませんぞ! はっはっは」
ドラスが豪快に笑った。
「さて、そのご尊顔を拝むとするか。それ!」
ドラスが合図するとミクラスがその兜をはぎ取った。すると長い髪が落ちて白い顔が浮かび上がった。
「なに!」
その顔を見たワージもドラスも驚いて声を上げた。だがミクラスだけは違った。思った通りとうなずいてリーサに言った。
「やはり、貴様だったか! リーサ!」
するとドラスもワージもその顔を思い出した。
「リーサ・・・確かにリーサだ! なぜお前が?」
ワージが尋ねたが、リーサはただ黙ってにらんでいた。
(私の役目はここまで・・・)
リーサは観念していた。王様が逃げる時間は十分に稼いだと・・・。一方、ミクラスは因縁の相手に復讐できることに喜びを感じていた。
「ふふふ。ここでまた会うとはな。我らが貴様のためにどんな目に遭ったことか。 すぐに殺してやる!」
ミクラスは恨みをこめて剣でその首を刺そうとした。だが、
「ミクラス。止めよ」
とドラスが止めた。彼には何か考えがあるようだ。
そこにアデン王が捕まったと聞いてあの2人が見に来た。彼女らは取り囲む兵士たちをかき分けて前に出てきた。
「あら、リーサじゃない」
「ほんとうね」
それはカーラとスギノだった。捕まったのがアデン王ではなかったが、憎いリーサだったのでうれしそうにそばに来て声をかけた。
「いい気味ね。ふふふ」
「無様ね。ふふふ」
カーラとスギノはあざけるように笑った。
「あなたのせいでひどい目に遭ったわ! だから復讐しに来たのよ」
「私たちがこの王宮の門を開けさせたのよ。大手柄だったのよ」
それを聞いてリーサはこの2人がドラスの側について王宮攻めに加担したことを知った。それでリーサの怒りに火がついた。
「この裏切り者! 恥ずかしくないの! あなたたちのせいでこの国が亡ぶかもしれないのよ!」
リーサは罵倒した。それはカーラとスギノを激しく怒らせた。
「な、なんですって! 許さないわ! ワージ様! すぐに殺してください!」
「ええ。とっとと殺してください」
カーラとスギノはワージに訴えた。するとドラスがミクラスに目で合図した。ワージはうなずきながらそれを見て2人に言った。
「わかった! 殺してやろう! 望みどおりにな! ミクラス!」
するとミクラスが剣を大きく振り上げた。そして一気にズバッッと振り下ろした。
「きゃあ!」
血しぶきが飛び、悲鳴が上がった。




