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破られた門

 王宮のすべての門は固く閉じられていた。だがそこには門番の兵士が2人ばかり張り付いているだけだった。もちろん異変があればすぐに奥に知らせる手はずになっていたが・・・。

 

 それは昼間のことだった。裏門の前に慌てて駆け寄る2人の女性の姿があった。布を頭からかぶり、顔を隠すようにしている。


「もし。お助けください!」

「中に入れてください!」


 その声に門番の兵士は小さな小窓から顔を出した。


「何者だ! 王宮に入ることはできぬ」


 すると2人の女は布を取って顔を見せた。


「カーラでございます! 女官として勤めていた・・・」

「同じくスギノです!」


 その兵士は2人に見覚えがあった。


「カーラ殿にスギノ殿! いかがいたしたのだ?」

「私どもはラジア公国から逃げてきたのです!」

「この国を攻めようとしていることを聞いて、一刻も早くお知らせしようと・・・」


 カーラとスギノはそう答えた。そう聞かされれば門を開けて中に入れてやるしかない・・・その兵士はそう思った。


「わかった! すぐに横の戸を開ける。そこから入ってくるがよい」


 その兵士は門の横の戸を開けた。


「さあ! 入って・・・」


 その瞬間、その兵士は剣に貫かれていた。そばに隠れていたミクラスがったのだ。そしてすぐに中に飛び込み、驚いて声を上げようとしていたもう一人の兵士も斬り捨てた。それはあっという間で他の者に気付かれた様子はなかった。

 その後にミクラスの仲間が次々にその戸から入って行き、彼らの力で裏門が開けられた。


「よし! うまくいった!」


 ミクラスは右手を大きく降って合図を送った。それは後方にひかえているドラスたちから見えた。


「いくぞ!」


 ドラスに率いられたラジア公国の兵士たちが王宮になだれ込んだ。


「王を! アデン王を殺せ!」


 真昼間の敵の奇襲に王宮の騎士や兵士たちは浮足立った。それぞれがバラバラに敵の前に飛び出して、次々に斬られて殺されていった。 

 百ほどの兵があれば王宮はしばらく守り切れるのだが、それは高い塀や門で敵の侵入を防いでいることが前提である。一旦、中に入られてしまったら、これだけの兵ではどうにもならない。しかも急な敵の攻撃で迎撃態勢ができていないときている。これでは王宮はすぐに陥落してしまうだろう。


 敵の攻撃はすぐに会議をしている奥の間に伝えられた。


「敵襲です。すでに門は開かれ、敵が王宮に侵入しています!」


 その報告を聞いてアデン王が立ち上がった。


「なに! 敵の数は?」

「わかりません。千は越えているかもしれません!」


 アデン王はため息をついて座り込んだ。もうどうにもならないことを悟ったのだろう。だがジューニ騎士団長が発言した。


「私はこれから兵士たちの指揮を執って敵を防いできます。その間に皆様方はここを逃れてください」


 王宮はもはや守り切れない。ならばここから落ちて再起を図った方がよいというのだ。


「レイダ公爵の軍はまだ健在ですし、それに評議会から助けが・・・」

「私は逃げぬ!」


 アデン王はジューニ騎士団長の言葉を遮って言った。その顔には並々ならぬ決意が秘められていた。


「王様!」

「皆が懸命に戦っているというのに私にここを去れというのか! そんなことすれば末代までの恥だ! 私は最後までここで戦う!」


 アデン王は死ぬつもりだった。こうなった原因は自分にあると・・・。だがジューニ騎士団長は何とか考えを変えていただこうと説得した。


「王様! あなたのために多くの者が命を懸けているのです。もしあなたがここでお倒れになったらこれらの者はどう思うでしょう。どうか、ここは・・・」

「いや、皆こそここから落ち延びよ。この不始末は私一人で責任を取る。たとえ私がいなくなっても評議会が、いやハークレイ法師様がこの国を救ってくださる」

「王様! それは・・・」

「もう何も申すな。私の好きなようにやらせてくれ。ジューニ。皆を頼む。私はここで敵を迎え撃つ!」


 アデン王はそれだけ言って奥の間を出て行った。


「王様・・・」


 ジューニ騎士団長はため息をついてアデン王を見送るしかなかった。



 リーサはそばにひかえてそのすべてを聞いていた。彼女の見るところアデン王の決意は固い。すでに死を覚悟されているのだ。だが・・・。


(王様! それは違います。皆は王様に生きていてほしいのです。それは私も・・・)


 リーサはジューニ騎士団長のそばに来て話しかけた。



「騎士団長様。お願いがございます」

「どうした?」

「私にお力をお貸しください。どうしても王様をお救いしたのです」

「そうか。お前もそうか・・・。だがどうやって?」

「私にお任せください」


 リーサもある決意を胸に秘めていた。


 ◇


 グラチ王城は多くの兵士たちを集め、騒然としていた。そのような時にプラクト大公を訪ねる者がいた。それはサラサ王女だった。彼女は王城の雰囲気に異変を感じていた。


「父上。王城内がなにやら騒がしいようですが・・・」

「そうかな? ちょっと兵を集めて訓練するだけだが」


 プラクト大公はそうごまかした。この利発で気の強い娘に知れれば、計画に齟齬が出かねないと危惧したからだ。


「そうですか。それにしても大仰な・・・。どこかと戦いを始めるような騒ぎですわね」


 勘のいいサラサ王女は気づいていた。


「ふふふ。それは誉めているのか? わが軍は精強だからな」

「父上。もしよこしまな考えを起こしておられるのならおやめください。昔と違って我が国の勝手が通るわけではございませんから」

「ん? 何のことだ? 儂はもう隠居の身。何もできぬではないか。はっはっは」


 プラクト大公は大声で笑った。


(やはり父上は腹の内を探らせない。だがトキソ国にちょっかいを出そうとしているのは目に見えている・・・)


 サラサ王女はそう思った。だが彼女の力ではそれを止めることはできない。ただ話をしてくぎを刺すしか・・・。


「父上。これだけは申しておきます。もしトキソ国に害をなすことがあれば私が黙っておりません!」

「ほう? それは怖いな。それは肝に銘じておこう。はっはっは」


 プラクト大公は笑っていた。だがその奥に野望を秘めていることをサラサ王女は見抜いていた。


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