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2回目

 評議会の2回目の会議が開かれた。議題はもちろんトキソ国に対するものだった。冒頭からビスク王がアデン王を非難していた。


「アデン王は無能だ! それまで治めていた大臣や役人を追い出し、まつりごとを私化した。その結果、民が反逆を起こしたのだ!」


 その発言にハークレイ法師が反論した。


「それは違う。アデン王は腐敗したまつりごとを改めたのだ。私腹を肥やしていた者どもを除くことによって」

「それは本当でしょうか? それならばなぜ民が反逆を? アデン王に民が治める力があるとは思えませんが」


 ビスク王はそこにいる皆に訴えるように言った。ハークレイ法師は首を横に振って言った。


「いやいや、だからといって他国の軍隊を入れるのはどうじゃ? それでは戦の火種になる」

「しかしこのままでは王に反対した民はトキソ国の兵に皆殺しにされましょう。隣国のラジア公国が手を差し伸ばし、これらの民を保護してくれるのですぞ」


 それに対してタイノス事務局長が発言した。


「それでラジア公国にトキソ国に攻め入る口実を与えるのですか?」


 それに対してラジア公国のメドール王が立ち上がった。


「無礼な! 我が国はそのような野心はない! 民を哀れに思って手を貸そうというのにその言い草は何だ!」


 メドール王はテーブルをドンと叩いて激昂した。それをビスク王がなだめるように言った。


「まあまあ、抑えられよ。メドール王がおっしゃった通り、ラジア公国の軍は民を助けるために動くだけだ。これなら問題はないように思うが・・・。皆はどう考えられるのかな?」


 ビスク王の発言に対して他の者たちはおおむね賛成の様だった。タイノス事務局長やハークレイ法師を除いて・・・。

 ビスク王は皆を見渡して言った。


「ではそろそろ決めてはどうかな?」

「いや、まだ・・・議論が尽くされていない」


 タイノス事務局長が反対するも、


「いや、もういいだろう」

「一昨日からの議題だ。もうそろそろ結論を出しても」

「早く決定して行動に移した方がよい」


 王や司祭たちから意見が出された。こうなったらもう引き延ばすことはできないだろう。タイノス事務局長はハークレイ法師を見た。


(もはやこれまでか・・・)


 そう思ったハークレイ法師は静かにうなずいた。


「ではこれから決を採りたいと思います。まず・・・」


 タイノス事務局長がそう言いかけた時、会議室のドアが開けられ、一人の男が入ってきた。


「少し、お待ちください!」


 それはキリンだった。


「ここをどこと心得る! すぐに出て行け!」


 タイノス事務局長がすぐに声を上げたが、それをハークレイ法師が右手を上げて制した。


「すまぬ。この者は儂の供の者でキリンという。キリン! 間に合ったぞ」

「それはよかった。どうぞお入りください」


 キリンが呼ぶとまた一人、男が入ってきた。そしてすぐに片膝をついて頭を下げた。


「トキソ国の執行官、ガンジと申します。我が主、アデン王の使いで参りました」


 それは左肩に毒矢を受けたガンジだった。キリンに助けられ、ハークレイ法師の治療を受けてやっと起き上がることができたのだ。

 ガンジは懐から書状を出してささげた。それをハークレイ法師自らそばに行って受取り、皆に見えるように広げた。


「この者は確かにトキソ国のアデン王の家来。アデン王の書状を儂に届けに来た。これには反逆軍が王都に向かっており、危機に直面していること。ラジア公国が背後で手を引いていることも書かれておる」

「嘘だ! 真っ赤な嘘だ!」


 ハークレイ法師の発言にメドール王は立ち上がって叫んだ。ハークレイ法師は静かに言った。


「それではこの者に話させよう。そちはここに来るときに襲われたのだな?」

「はい。街道はラジア公国の兵で封鎖されています。私はそれを破ってここに来ました。この傷はその時に受けた矢によるもの。ハークレイ法師様に助けていただきました」


 ガンジはそう証言した。だがメドール王は真っ向から否定した。


「でたらめだ! そんなことを信じろというのか! この者一人の証言を!」

「では矢はどうだ。キリン!」

「はっ!」


 キリンは一本の矢をハークレイ法師に手渡した。


「これはガンジの左肩に刺さっていた矢だ。毒が塗っておる。この矢に見覚えがあろう。いや、この毒を調べればラジア公国のものだとはっきりしよう」


 ハークレイ法師はメドール王に矢を突きつけた。


「ふ~む・・・」


 それを見てメドール王は言葉にもならない声を発して椅子に座り込んだ。


「どうじゃ。皆の衆。これでこの件は否決でいいかの?」


 するとほとんどの者が大きくうなずいた。ただビスク王が悔しそうに唇をかみ、メドール王は放心状態になっていた。



 会議は終わった。メドール王はビスク王に抱えられて部屋を出て行った。タイノス事務局長がハークレイ法師のそばに来た。


「危ないところでした」

「そうじゃな。ガンジは毒矢を受けて死にかけていた。儂が方術で治療したが、目を覚ますかどうか五分五分じゃった。ともかくよかった。のうガンジよ!」


 するとガンジがそばに来て片膝をついて頭を下げた。


「命をお救いいただき、ありがとうございます。このご恩は一生、忘れません」

「それはよいとして、トキソ国を救わねばならんな。」


 ハークレイ法師が言った。


「会議ではラジア公国の出兵は否決されました。もう心配はないのでは?」


 タイノス事務局長が意外な顔をしてそう言ったが、ハークレイは首を横に振った。


「いやいや。ラジア公国の前国王、プラクト大公の野望は計り知れない。ここで否決されようが必ず力づくでもトキソ国を飲み込むだろう」

「まさか・・・」

「いや、プラクト大公とはそういう男じゃ」


 ハークレイ法師ははっきりそう言った。それを聞いてガンジはさらに頭を下げた。


「ぜひともハークレイ法師様のお力をお貸しください! お願いいたします!」

「わかっておる。しかしラジア公国の動きが読めなかった。なぜか・・・」


 ハークレイ法師は懐から水晶玉を取り出して、中をじっと見つめた。


「ふーむ。異変を知らせるものはない・・・ふむ? これは・・・」

「どうかされましたか?」


 タイノス事務局長が尋ねた。


「大公め。やりおったな! この水晶玉にニセの世界を見せていたのじゃ。多分、奴の国の黒魔術を使って。このハークレイ、見事にだまされてしまったわ!」


 水晶玉で状況がわからないのに手が打てるのか・・・と心配するタイノス事務局長に対して、ハークレイ法師はあまり気にしていなかった。


「とにかく儂は馬でトキソ国を向かう。ガンジも同行できるか?」

「はっ! おかげさまで傷はよくなっています。馬に乗れます」

「うむ。ならばタイノス事務局長。すまぬが馬を2頭、用意してくれ」


 そしてハークレイ法師はそばでひかえているキリンに命じた。


「キリンはビャッコ、セイリュウ、ゲンブとともにトキソ国へ急げ。途中、街道の封鎖しているラジア公国の兵士を蹴散らしていけ! 儂は今から馬で向かう。トキソ国で合流するぞ」

「はっ!」


 キリンはすぐにそこから飛び出して行った。


「さて、ガンジよ。我々も急ぐぞ! 何か嫌な予感がする」

「はっ!」


 ハークレイ法師とガンジは馬でトキソ国に急ぐことになった。

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