ガンジの危機
ガンジはある考えがあって数頭の馬をつないで首都ゼロクロスに向かっていた。街道をまっすぐに行けばたどり着けるのだが、そこは兵士が張り付いて何者も通さないようにしている。
「あの兵は・・・ラジア公国の者か」
ガンジにはそれがわかった。ベルガはそこを馬を走らせて強行突破しようとしてやられたのだろう。ガンジは馬を降りた。そしてつないでいる馬たちの縄を解いた。
「頼むぞ! お前たち!」
ガンジは一頭の馬だけを残して、他の馬の尻を叩いた。
「ヒヒーン!」「ブヒーン!」
馬たちが驚いて走り始めた。それは街道を封鎖している兵士に突っ込んで行った。
「馬だ!」「暴れ馬だ!」
兵士たちは右往左往して逃げて行く。道は開けられた。
「行くぞ!」
ガンジはさっと馬にまたがり、激しく走らせてそこを突破していった。
「突破されたぞ!」「追え!」
後ろから声が聞こえてくる。だがガンジは振り返りもせず、馬を走らせた。
「このままゼロクロスまで行ってやる!」
激走する馬に振り落とされまいとガンジは必死に馬にしがみついていた。
一方、キリンはハークレイ法師の命を受けてトキソ国に向けて急いでいた。その黄色く燃えるような姿をさらしながら・・・。
「何だ! あれは!」
キリンは一人の男が馬に乗って街道を必死に逃げている姿を見た。後ろからは多くの兵士が馬で追いかけて、逃げる男に弓矢を放っていた。
前を走る馬はすでに疲れていて倒れそうになっている。後ろの兵士との距離が詰まってきていた。すると逃げていた男は馬から飛び降りた。何をするのかと思えば、そのまま自ら走って逃げていた。そのスピードは馬にも劣らない。
だが兵士たちの放った矢が彼に襲い掛かる。男はそれを交わそうと右や左に逃げていた。だが一本の矢が男の左肩を貫いた。
「うわあ!」
男は叫び声を上げてその場に倒れた。だが男は何とか立ち上がろうともがいていた。だが彼を馬に乗った兵士たちが取り囲んでしまった。
「もう逃げられぬぞ! 観念しろ!」
兵たちは馬から降りて剣を抜いた。その男は剣を突きつけられて覚悟を決めた。座り込んで目をじっと閉じた。
「死ね!」
兵士の剣が振り下ろされようとしていた。だが、
「ドーン!」
と急に現れた得体のしれないものに兵士たちが皆、吹っ飛ばされた。
「何だ?」
兵士たちが立ち上がると、その男の前に黄色の服を着た男が立っていた。それはキリンだった。
「寄って集って何の真似だ!」
「貴様が知る必要はない!」
兵士たちは立ち上がると今度はキリンに襲い掛かってきた。キリンは斬りかかってくる剣をかわし、突きや蹴りで兵士たちを叩きのめしていった。兵士たちが束になってかかろうともキリンには敵わない。
「くそ! 退け!」
敵わないと見た兵士たちは次々に馬に乗って逃げて行った。
「なんて奴らだ!」
キリンは後を追わず、襲われた男を見た。左肩に矢を受けており、ぐったりと倒れ込んでいる。毒矢だったのかもしれない。
「しっかりしなせえ!」
キリンが抱き起すとまだかすかに息があった。彼はその男の顔を見て驚いた。
「ガンジさん! ガンジさんじゃありませんか!」
「あなたは・・・ハークレイ法師様の・・・」
「そうです。ハークレイ法師様の供のキリンです。一体どうしたのです!」
「ハ、ハークレイ法師様にお伝えください。トキソ国の危機です。お助けくださいと・・・」
ガンジは右手を伸ばして訴えたが、そこで右手はガクッと落ちて目を閉じていた。
「ガンジさん! ガンジさん!」
キリンが何度も呼び掛けたが、ガンジが目を開けることはなかった。




