評議会
今年の評議会が開催された。大国の王が6名、司祭が3名、商人が2名に事務局長のタイノスに最高顧問のハークレイ法師で構成される。
様々なことが話し合われた後に、ルドー国のビスク王が緊急提議をした。
「トキソ国の政が乱れ、民が困窮していると聞き及んでおります。内乱も起こっているとか。ここは評議会が介入する必要があるかと」
ルドー国はラジア公国の盟友という立場にあった。ラジア公国のメドール王がビスク王にそう言わせているのは確かだった。ハークレイ法師は眉をひそめて言った。
「そんなことは聞いておらぬが」
「いえ、いくつかの国で聞き及んでおります。メドール王はいかがですか?」
ビスク王が尋ねるとメドール王がすぐに答えた。
「隣国ゆえ、いろいろと情報が入ってきております。やはり民の反乱がおきたと」
「やはりこれは大変な事態です。治安も乱れておりましょう」
「ええ。怒った民を静めなければ・・・。わが国の軍を動員して治安を守ることにしてはいかがでしょうか」
メドール王はさらりとそう言ってのけた。これはビスク王と事前に打ち合わせしていたのだろう。とんだ茶番だとハークレイ法師は思った。するとアトラス帝国のレインヴィッヒ王が手を挙げた。
「メドール王に賛成だ!」
「私もだ」
チュージ共和国のキンペ王も手を挙げた。するとホルべ司祭も発言した。
「苦しむ民を救わねばならぬ。ここはメドール王にお骨折りいただいて」
「そうだ! その通りだ!」
カント法王が大きくうなずいた。
「トキソ国は街道沿いにあります。早く解決しなければなりませぬ!」
商人のダイコクもその提案に賛成のようだ。後の者は態度を決めかねている。
(ビスク王、レインヴィッヒ王、ホルべ司祭、ダイコク、カント法王がメドール王に抱きこまれたか。賛成はメドール王を加えても6名。過半数には足らぬが・・・)
ハークレイ法師はメンバーを見渡した。後はアメリオ公国のデンカ王、イーデン王国のエリザ女王、サラク国のラゴン王、そしてパーロ司教と商人のエチヤの5名だ。事務局長のタイノスとハークレイ法師を合わせてやっと7名になり、過半数が取れる。だがそれらの者が必ずとも反対というわけではないようだ。
「どうであろうか? もう少し情報を集めてからも遅くはないと思うが・・・」
ハークレイ法師はそう提案した。このままではメドール王の狙い通りになってしまう。だが先延ばしにはすまいとビスク王が反対した。
「いや、事は急がねば民の苦しみは大きくなりましょう。ラジア公国の軍の準備もかかります。この場で決めてはいいかがですか?」
「そうですな。待ったところで何も得られぬでしょう」
レインヴィッヒ王もビスク王に同調した。それをメドール王は何も発言せずに平然と聞いていた。
「儂もそう思う。決を採ってみてはどうか」
カント法王はタイノス事務局長に迫った。今の状況ではその提案は賛成に傾いてしまうだろう。
「しかしまだ議論が尽くされていないのでは?」
タイノス事務局長はハークレイ法師の方を見た。だがハークレイ法師が発言する前に、
「いや、もういいのではないですかな? ハークレイ法師?」
逆にメドール王がハークレイ法師に尋ねた。それは促すようにも、威嚇するようにも見えた。まるで自国の軍事力があれば怖いものなどないというような・・・。ハークレイ法師はその様子にメドール王の焦りを見た。
「メドール王。あなたはなぜそんなに急いでおられるのか?」
「急ぐ? この私が?」
「そうじゃ。ここで今すぐに結論を出したからといって貴国の軍がすぐに活動できるわけでもあるまい。それともこのことを見越してすぐに動けるようにしておられるのかな?」
ハークレイ法師はじっとメドール王を見た。
「い、いや。そんなことはない」
メドール王は何もかもハークレイ法師に見抜かれている気がしていた。
「本当にそうですかな?」
「本当だ」
「ならば今日は結論を出さなくてもいいのではないかな」
「うっ。しかし・・・」
そこにビスク王が言葉をはさんだ。
「ならば後日、また話し合ってはどうだ。次は必ず結論を出すとして。いかがかな?」
すると多くの者がうなずいていた。
「それでは明後日でよろしいな。タイノス事務局長。ハークレイ法師様はそう言われたが悠長に構えてはおられぬからな」
ビスク王の提案にタイノス事務局長は迷った。彼はハークレイ法師の方をまた見た。するとハークレイ法師は(仕方あるまい)というようにうなずいていた。
「では明後日。また集まりましょう」
それで今日のところは散開になった。




