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届け物

 授業が終わり、リーサは急いで家に帰ろうとしていた。門を出たところで、


「ちょっと。リーサさん」


 呼び止められた。振り返ると一人の老婆が立っていた。


「なんでしょうか?」

「ちょっと頼まれてくれないかの? コムギ村の孫に自慢のパイを食べさせたくての。今日が誕生日なんじゃ。でももっていく方が急に都合が悪くなってしまって・・・」


 老婆は籠を下げていた。誕生日祝いにパイを焼いたのだが持っていけなくなったのだろう。これではその孫がかわいそうだし、パイも無駄になってしまう。


「いいわ。もって行ってあげる」

「ありがとうよ。孫のイチカが楽しみにしていての」

「イチカちゃんね。ええと・・・ゴンゾさんのところね。わかったわ!」


 リーサは籠を受け取って走り出した。籠から香ばしい匂いがしている。できるだけ早く届けねばとリーサはいつもより早く走った。

 するとゴンゾの家には日暮れよりかなり前に着いた。リーサは玄関を開けて奥に声をかけた。


「こんにちは。おばあさんに頼まれてパイを持ってきました」


 すると女の子が出てきた。その子がイチカちゃんらしい。リーサは籠を渡した。


「わーい! ありがとう!」


 イチカは籠の中身を見て喜んだ。そのパイを待ちかねていたようだ。


「おばあちゃんのパイを楽しみにしていたんだ!」

「それはよかったね」


 リーサはイチカの頭をなでて言った。すると母親も出てきた。籠のパイを見て顔をほころばせた。


「リーサさんありがとう。こんなに重いのに運んでくれたのね」

「ちょうど帰り道でしたから」

「ちょっと待って」


 母親はパイを切り分けて包んでくれた。


「おすそ分けよ」

「どうもすみません」


 リーサは受け取って頭を下げた。イチカはうれしそうに笑っていた。


「おばあちゃんのパイはおいしいのよ」

「楽しみだわ。じゃあ、またね」


 リーサは家に向かった。何か心の中からうれしさがあふれているようだった。


(よかった。喜んでくれて・・・)


 その手にはおすそ分けしてもらったパイがある。リーサはイチカの喜びも分けてもらった気がしていた。


 リーサはそれからも頼まれて届け物をした。コムギ村までなら遠回りの大きな道を馬に揺られて半日はかかる。でも森の小道を走ってリーサなら2時間ほどしかかからない。そのことが町中に広まり、リーサに届け物を頼む人が多くなった。それが一人、二人と増えていき、ついには学校の終わる時間になると、門の前に届け物を頼みたい人がたくさん集まっていた。


(今日もこんなに・・・)


 帰り道はいつも重い荷物を背負って、あちこちの家に立ち寄って帰ることになってしまった。だがリーサはいつも快く引き受けた。受け取る人の喜ぶ顔が彼女にはたまらなかったからだ。


(私の脚がみんなの役に立っている!)


 そう思うとうれしくて誇らしかった。それにこの走りについてこられる者はだれもいない。


(この脚は誰にも負けない。父上にだって勝てるかもしれない)


 走りに自信が出てきた。だがその脚を荷物を運ぶ以外に生かすことはないだろう。それよりも女官になる道を探さねば・・・と思っていた。もうすぐ学校は卒業だ。だが女官になるには王宮勤めの役人の推薦がいる。生真面目な父にはそのようなつてはないし、一介の騎士の娘を誰が推薦してくれようかと。


(もしかして父が朝駆けで一番乗りになれば、王様がその願いを聞き届けてくださるかもしれない・・・)


 彼女は淡い期待をもっていた。


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