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使者

 数日後のことだった。鞍の上にぐったりとした男を乗せて王宮にたどり着いた馬があった。門番が(なにごとか!)と馬の手綱を取ると、鞍から男が落ちてきた。それを見て門番は声を上げた。


「ベルガ殿! ベルガ殿ではありませんか!」


 ベルガは背中に矢を受けて、もはや虫の息だった。



 ベルガはすぐに王宮内の診療室に運ばれた。そこにアデン王をはじめ、レイダ公爵やガンジ執行官たちが駆けつけてきた。そしてリーサもアデン王についてその場に来た。


「ベルガ! しっかりしろ! 何があった?」


 レイダ公爵が呼び掛けた。ベルガの受けた矢は毒矢だった。もう命の火が燃え尽きようとしている。だが彼は最後の力を振り絞って答えた。


「こ、公爵様・・・街道はすべて敵の手に・・・ラジア公国の者たちで・・・封鎖されています・・・」

「なに!」

「ゼ、ゼロクロスには行けなかった・・・無念です・・・」


 それでベルガはこと切れた。


「ベルガ! ベルガ!」


 何度も呼び掛けるがもう何の反応もない。そばにいた医師は首を横に振った。


「ベルガよ。安らかに眠れ」


 アデン王が手を合わせた。他の者も手を合わせて彼のために祈った。そこにいる皆がベルガの死を悼んだ。


 しばらくしてレイダ公爵が口を開いた。


「ベルガには気の毒なことをしました・・・。ですが王様。いかがいたしますか? 首都ゼロクロスへの道は敵に封鎖されているようでございます」

「うむ。しかしこのままでは・・・」


 アデン王は腕を組んで考えていた。その様子を見てリーサは思った。自分なら封鎖されている街道を突破してゼロクロスに行けるのではないかと・・・。リーサは王様の前に出て片膝をついた。


「恐れながら王様!」

「どうした? リーサ」 

「私をゼロクロスに派遣してください!」

「えっ! 何を!」


 リーサの言葉にアデン王は驚いた。しかしいくら健脚でも女の身だ。そんな危険な場所に送ることはできない。いやそれは誰であっても同じだ・・・アデン王はリーサの申し出を断ろうとした。するとその前にガンジがリーサをたしなめた。


「これ! リーサ! 無礼であるぞ! 女官の身でこの場にしゃしゃり出るとは!」

「しかし父上・・・」

「場をわきまえよ! 下がれ!」


 ガンジに厳しく言われて仕方なくリーサは下がった。するとそこにガンジが出て来て片膝をついた。


「娘が無礼をして申し訳ありませぬ」

「いや、それはよい。リーサは国のことを思ってくれたのだから・・・」

「いいえ。それは許せませぬ。娘の咎は私の罪でございます。この上は罰として私にゼロクロス行きの任務をお与えください」


 ガンジはそう言った。心優しいアデン王のことだから、死に追いやるような任務を誰かに申し付けることはできないだろう。だがそれではこの危機は乗り越えられない。だからガンジはそんな芝居がかった真似をしてまでその任務を引き受けようとしたのだ。もちろん愛しい娘をそんな場所に送ることなどできないこともあるが・・・。


「ガンジよ。私には・・・」


 アデン王はその辺のところはよくわかっていた。だからこそガンジにその任務を与えることはできない。だがガンジは言葉をはさんだ。


「王様! 私は朝駆けで一番乗りを取ったこともあるガンジですぞ! そんなやすやすと敵の手にかかるわけがありませぬ。どうかお申し付けを!」


 ガンジは顔を上げた。その目は真剣だった。アデン王は迷った。


(このトキソ国は危機を迎えている。このままでは破滅するだけだ。だからゼロクロスへの使いは必要だ。だが危険を伴う。ベルガのように命を落とすかもしれない。しかしどうしても評議会に、いやハークレイ法師様にお知らせしなければ・・・)


「王様!」


 ガンジは決断を迫った。彼は真剣な目で見つめて続けている。それでアデン王はようやく苦渋の決断を下した。


「ガンジ、頼むぞ! そちにこの国の命運がかかっている! だが死ぬな! 必ず生きて戻ってくるのだぞ!」


 アデン王はガンジの手を取って言った。


「はっ! このガンジ。必ず使命を果たしてごらんに入れます!」


 ガンジは頭を下げた。それを見ていたリーサは、


(父上が私の身代わりに・・・。 どうか神様! 父が無事にゼロクロスに参れますように・・・)


 と心の中で祈っていた。


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