プラクト大公
ラジア公国の王都はモスブルクである。この極寒の地にプラクト大公のいるグラチ王城がある。評議会に出ている息子のメドール王に代わり、彼がこの国の政を差配していた。
プラクト大公は執務室から窓の外を眺めていた。そこは赤々と燃える暖炉とは対照的にすべてを凍てつかす氷の世界であった。
(我が国は少しでも温暖な土地を得なければならない)
それはプラクト大公のみならず、代々の王が抱いてきた野望だった。その一部が近々、叶わんとしている。
「大公様。お連れしました」
お付きの武官が声をかけた。プラクト大公が振り返るとそこにあの男たちがいた。
「ドラス殿。ワージ殿。よくぞ参られた」
プラクト大公が声をかけた。ドラスとワージはその前に片膝をついて頭を下げた。
「大公様。この度はお救いいただきありがとうございます」
「いや、あなたに力添えしたいのでな。さあ、あちらに」
プラクト大公はドラスたちに椅子を用意した。そして自らは正面のソファに座った。
「アデン王に反逆する者たちが軍を率いて国境の砦を落とした。後はあなたが兵を率いて王宮に乗り込み、アデン王を弑するのみ」
プラクト大公はこともなげに言った。ドラスはそれを聞いてニヤリと笑った。
「兵をお貸しいただけますので?」
「もちろんだ。それであなたはトキソ国の新しい王だ。なに、問題ない。評議会は私の意のままだ。これからはお互い協力してこのメカラス連邦を支配しよう」
プラクト大公は「はっはっは!」と大笑いした。ドラスもワージもそれにつられるように「ははは」と笑った。
「では早速準備をするがいい。我が方とのつなぎはカイアミが行う。よろしいかな」
「大公様のお心のままに」
「ではまた会う時まで。その時はドラス王と呼ぶことになろう」
ドラスはそれを聞いてまたニヤリと笑った。
話が済み、ドラスとワージは執務室から出て行った。
「大公様。よろしいので?」
側近のヨーク総長が尋ねた。
「うむ。あやつらはただの駒だ。必要がなくなったら消せばよい。それよりトキソ国の方はどうだ?」
「カイアミがうまくやっているようです。まだ外には漏れないように行っております」
「評議会、特にハークレイに知られると厄介だ。まあ、我が国の黒魔術を使って奴の水晶玉を妨害しているからな」
「これなら当分は知られないでしょう」
「奴が知る頃にはもうどうにもできなくなっているだろう。ここまで進んでしまったらな。フフフ」
プラクト大公はその陰謀がうまくいっていることに満足して不気味に笑った。




