知らせ
夜間に国境の地に調査に行ったものが急ぎ帰ってきた。その報告を聞いてレイダ公爵は非常に驚き、すぐに重臣を集めて緊急会議を開くことにした。そして国の一大事に急遽、アデン王もそこに呼ばれた。
「何事だ! この夜分に」
「一大事でございます!」
レイダ公爵が話し出した。
「近頃、ラジア公国との国境沿いの砦との連絡が取れなかったのです。何度も伝令や調査官を送ってもです。これはおかしいとその地方を密かに探るために、健脚のベルガを送り込みました。すると大変なことがわかったのです。」
レイダ公爵が合図するとベルガが立って発言した。朝駆けの一番乗りの功で首席伝令官になったが、すぐにその役目を果たしたようだ。
「ラジア公国との国境沿いのほとんどの砦が攻められて陥落しています。調べたところマスカが反逆を起こしたようです。」
「なに! あのマスカが!」
アデン王は驚いて思わず声を上げた。レイダ公爵が後を続けた。
「国境の地からここまでの連絡路を封鎖し、これまで送った伝令や調査官を捕らえているのでしょう」
「反逆軍の規模は?」
「よくはわかりませんが、かなり膨らんでいることは間違いありません。それに国境の砦が陥落したとなるとラジア公国が攻めてくるかもしれません。多分、その反乱にラジア公国が手を貸していると思います。それらしい者がそこにいるのを見ました」
それは大変な事態だった。ラジア公国は領土拡大の野望を隠そうとしていない。現にこの前、ミンゴク伯爵領がラジア公国に併合されたばかりだ。アデン王は国が大きな危機を迎えていることを知った。
「これは大変だ!」
「この上はいかがしますか?」
「首都ゼロクロスに使いを出してハークレイ法師様におすがりしよう」
「ではすぐに。帰ったところですまぬが、ベルガ、また王都まで頼む!」
「はっ!」
奥の間ではまだ会議が続けられていた。リーサはその外で王様を待っていた。会議での会話はどうしてもリーサの耳に入る。
「知らない間にこんなことに・・・」
リーサは強い不安を感じていた。
◇
マスカの前にカイアミが来ていた。
「これであの王をこの国から追い払うことができる」
マスカはすぐにでも兵を率いて王宮に押し寄せたかった。しかしそれをそばについているカイアミが止めた。
「いくら軍が強力になったところで、所詮、寄せ集めの烏合の衆。他からの援軍が来たら霧散しましょう」
「ではどうしたらいいのだ?」
マスカが尋ねると、カイアミは目を光らせながら答えた。
「まずはこの国境を固め、街道を押さえることが肝要。この国を封鎖するのです。蟻の子一匹出られぬように。我が国の兵が協力いたします」
「それから?」
「そうすれば外部との連絡が取れなくなり、この国に何が起こっているかを知ることはできません。そうなれば助けは来ませんし、援軍を呼びに行けません。王宮の軍は孤立無援です。そこに攻めかかるのです」
「それで王宮を乗っ取り、しっかりとこの国を支配するのだな」
「はい。そうなれば誰も手出しできませぬ。それに我らにはラジア公国が付いております。連邦評議会もハークレイ法師様が押さえてくれましょう。そしてあなたがこの国に君臨するのです。」
「そんなことはできぬ!」
カイアミの言葉にマスカはすぐに反応した。自分が王になるとはとんでもない。それでは・・・。その心を読み取ったカイアミはマスカにやさしい声でささやいた。
「これは天命です。あなたが王になるという。あなたがこの国を救うのです」
「しかし・・・」
「ハークレイ法師様がそれを望んでおられるのです。あなたが王として君臨するのを・・・。さあ、あなたは王になる。王になるのです。マスカ殿。お分かりになりましたな」
マスカは独特の口調でマスカの耳にささやいた。
「う、うむ」
マスカはまるで何かに操られるかのように大きくうなずいた。彼の中の恐るべき野望が吹き込まれて大きくなっていた。




