副官タカロ
マスカはハークレイ法師からの書状を副官のタカロに見せた。彼は2年前までは王宮警備の武官だったが、ここに配置換えになっていた。
「どう思う?」
「ハークレイ法師様はこの国の現状を見てやっと決意されたのでしょう。王様が悪政を敷いているとして。ドラス前大臣をのぞいてもなお収まらないこの国をよくお調べになったのでしょう。それにラジア公国が手を貸すとあります。その国のメドール王は評議会のメンバーでもあります」
タカロはそう答えた。
「ハークレイ法師様はどのようなお方なのだ?」
「2年前の朝駆けの騒ぎの時にお姿を拝見いたしました。悪事を働く者には厳しく当たられましたが、皆には優しく接しておられました。まるで後光が差すような立派な方でございました」
「そうか・・・。それならば我々も決意しなければならぬ。タカロ。お前はどうする。ことは重大だ。もし気が進まねば降りてもいい」
マスカは静かに言った。するとタカロはその場に片膝をついて頭を下げた。
「私の気持ちは揺るぎません。マスカ様とともに・・・。この身を捧げます!」
「おお! そうか! お前まで巻き込んですまぬが頼むぞ!」
マスカはタカロの手を取った。
「何をおっしゃいますか。マスカ様に受けた御恩に比べれば・・・。兵たちもすべて従うでしょう!」
こうしてマスカはタカロとともに行動に移すことにした。ハークレイ法師という大きな後ろ盾がある。彼らは王宮に気取られぬように準備を着々と進めていた。
やがて計画通りに兵が多く集まり、後は機が熟するのを待つだけになった。しかし兵たちの士気が高いわけでもなかった。その中には彼に絶対の忠心を持つ腹心もいたが、多くは訳も分からず、雑多な部隊から急遽かき集めた者たちだった。マスカは彼らの前の壇上に立った。
「この国は乱れている。それもあの新しい王が来てからだ! 我々の手で国を立て直すのだ。そのためには我らが団結して力を合わせ、アデン王を追い払うのだ!」
その演説にうなずく者もあったが、王家には逆らえぬ、とかまだ信じられぬという風な者が多かった。そこでマスカはあの書状を出した。
「これは連邦評議会の最高顧問、ハークレイ法師様の書状だ。あの方は我らを頼りにしてアデン王を追放するように求められた。正義は我らにある!」
兵士たちはハークレイ法師の書状を見せられ、目を見開いて驚いた。
「えっ! ハークレイ法師様が! それは!」
ハークレイ法師の威光に、その場にいた兵士たちはすぐにその書状に向かって片膝をついて頭を下げた。
「わかったか! しかも隣国のラジア公国もハークレイ法師様の働きかけで力を貸してくださる。我らに恐れるものなどない! 皆の者! いくぞ!」
「おう!」
マスカの言葉に兵士たちは興奮して立ち上がり、こぶしを突き上げた。マスカはそれを満足して壇を降りた。するとそこに近づく人影があった。それはあの顔を隠した使者の男、カイアミだった。
「お見事でございます。マスカ殿。ハークレイ法師様からの伝言もございます。今後の行動についてはラジア公国のプラクト大公の命に従うようにとのことでございます。詳しくはこの書状にあるとのことでございました」
「うむ。あいわかった」
マスカは書状を受け取った。するとすぐにカイアミは姿を消した。
そばにいた副官のタカロがマスカのそばに来た。
「あの者は?」
「ラジア公国の者でハークレイ法師様の使いだ」
「信用できるのですか?」
タカロはカイアミに何か不審な点を見たようだった。
「間違いはなかろう。あのハークレイ法師様の書状を届けてくれるのだからな」
「それはそうですが・・・」
タカロはまだ完全に納得したわけでもない様子だった。




