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朝駆け

 いよいよ朝駆けの日となった。まだ暗い教会の庭に多くの騎士が集まっていた。そこはピリピリした緊張感が辺りを支配していた。


 毎年、朝駆けを多くの人々が楽しみにしている。参加する騎士も応援する民も、そしてアデン王も・・・。この勇壮な伝統行事はトキソ国の誇りなのだ。


 リーサが甲冑を着て教会に現れた。周囲から歓声が上がる。今年は彼女が注目の的だ。前年に一番乗りを果たした因縁のベルガと競うからだ。


「リーサさん!」

「がんばって!」

「一番乗りになってね!」


 始まる前から周囲の者から声をかけられる。リーサはまたひどい緊張感に包まれたが、気分はいつになく楽だった。


(ただただ走るだけでいい。一番乗りは狙わない・・・)


 やがて東の空が白み始めた。遠くに見える王宮から合図の灯りが見えて、鐘が打ち鳴らされた。


「皆の者! 王宮へ駆けよ!」


 役人が声を上げる。これを合図に騎士たちが走り始めた。リーサもそれに合わせて走り出す。


「えっさ! えっさ! えっさ!」


 掛け声が辺りにこだました。教会から道に出て、後は王宮を目指すのみ。沿道からは多くの観衆が声援を送っていた。


「がんばれ!」「しっかり!」


 勇壮な騎士たちが駆け抜けていく。辺りは興奮と熱気に包まれていた。

 ベルガはいつものように少しずつペースを上げてきた。それについてこられない騎士は脱落する。リーサはこれについて行った。今のところ問題はない。

 やがて先頭集団が形成されていった。ベルガとリーサ以外に4人。これもいつものメンバーだ。そして鬱蒼とした森の小道に入って行く。

 ここは傾斜がきつい。ペースは変わらなくても脚に対する負担は大きい。ここでまた2名が脱落していった。4人が薄暗い森を駆け抜ける。


「ついてきているな!」


 ベルガは後ろを振り返って確認した。リーサがついてきていることを。それは予想していたことだった。彼の気性からしたらここでスピードを上げて引き離そうとするだろう。


(もう2度と同じ轍は踏まねえぜ。最後で勝負だ!)


 一方、リーサは無理することなくベルガについていくことができた。


(最後で勝負するつもりね。これなら最後まで走り切れるかも・・・)



 やがてやっとの思いでついてきた2人の騎士は、森を抜けたところで脱落していった。これでベルガとリーサの一騎打ちとなった。それでもベルガはペースを上げない。リーサの脚力を恐れて前に出られないのだ。

 一方、さすがのリーサもここに来て苦しくなってきた。息が乱れ始め、脚がうまく動かなくなってきている。


(ここら辺が限界ね。やっぱりベルガさんだわ。この国一の健脚のことはある)


 リーサはペースを緩めようと思った。王宮の門は遠くに見えている。朝駆けの責任者である父のガンジが見守っているはず。だがそこにはもう一人・・・。


(王様!)


 例年なら王宮の玄関前で床几に座って待っているはずだが、今年は門のところまで出て来ている。リーサは思い出した。


「今年はリーサも走る。私もリーサの走る姿を見たいものだ」


 朝駆けの前日、アデン王はそう呟いていた。まさか本当になさるとは・・・リーサは驚きとともに元気が湧いてきた。


(王様に無様な姿は見せられない! 精一杯の私の姿を見ていていただくわ!)


 リーサはしっかり腕を振って走り始めた。それを並走するベルガは感じとっていた。


(さっきまで息絶え絶えの奴がどうしたわけだ。こうなったらラストスパートだ! 一気に引き離して王宮の門をくぐる!)


 ベルガはここに来て最後の力を使ってスピードアップした。リーサの前に出て、すこしずつリードを広げてくる。


(ここで負けるわけにいかない。王様が応援してくださるのに・・・)


 リーサも負けじとベルガについて行った。


 門の前の観衆からどよめきが起こった。ベルガとリーサの2人が見えてきたからだ。一昨年前の再来だ。今度はどちらが勝つのかと。


「がんばれ! ベルガ!」

「リーサ! しっかり!」


 観衆は2人に大きな声援を送る。門にいるアデン王は声を出さないものの、心の中で、


(リーサ! がんばれ!)


 と応援していた。力が入ってその両手がギュッと握られている。


 やがてベルガとリーサは門の前に来た。抜きつ抜かれつのデッドヒートを繰り広げている。一方は自らのプライドのため、また一方は王様への思いのため・・・互いに譲らずにそのまま門を潜り抜けた。そして両者はその場に倒れ込んだ。


 群衆は大いに沸いた。どっちが勝ったのかと・・・。ガンジの判定を待っている。


「同着!」


 ガンジがそう判定した。


「よくやった!」「いいぞ!」


 観衆は2人に惜しみない拍手を送った。


「大丈夫か?」


 倒れたベルガに役人が手を貸して起こした。一方、リーサの方は・・・。


「リーサ! よくやった!」


 駆け寄って抱き起したのはアデン王だった。


「王様・・・」

「この目で見ていたぞ! あっぱれだった!」


 リーサはうれしさでいっぱいになりながらその場で気を失った。


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