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裸の王様

 トキソ国はメカラス連邦に属する、街道に面した小国である。その王都には多くの人々が集まり、大いに栄えていた。そしてその小高い丘に建つ王宮は荘厳かつ華麗なたたずまいを見せていた。

 だがそれに引き換え。周囲の村々は貧しかった。土地がやせているため作物があまりできず、最近は雨があまり降らずに凶作に陥っていた。それなのに税の取り立ては厳しく人々の生活は苦しかった。



 アデン王が王宮の執務室の窓から町の様子を眺めていた。そこはいつもの様に活気ある賑わいを見せていた。彼はそれに満足そうにうなずいていた。


(この国も持ち直しているようだ。それをこの目で見たいものだが・・・)


 本来なら国中のあちこちに視察に行きたいのだが、大臣たちに止められていた。神聖な王様が軽々しく出歩くものではないと。だからこうして王宮から見る景色から民の生活の様子を類推するしかない。彼の目には民は豊かに暮らしているように見えた。


 そこにドラス大臣が上奏する書類を持って現れた。まだ若い王に変わってこの重臣が政の細かいところを取り仕切っていた。


「王様、これが今日の分でございます」


 ドラス大臣が書類の束を机の上に置いた。これをアデン王が決裁していくのである。


「いつもと変わらず、にぎわっておるな」

「これも王様のおかげでございます。皆喜んでおります」


 そばに控えるドラス大臣が笑顔を見せながら言った。アデン王は「うむ」とうなずいた。


「そうか。この国の民が喜んでくれることが私はうれしいのだ」

「王様がこの国にいらしてから治安が守られ、民は豊かになっております。作物の出来もよくなり今年の税も多くなりましょう」

「そうなればもっと多くのことを民にすることができよう」


 アデン王はそう言いながら執務の机に戻ると、ふとあることを思い出した。


「そういえばもうすぐ朝駆けの時期と聞く」


 年1回行われる朝駆けは、この国の伝統ある行事の一つであった。これによりトキソ国の強さを内外に示し、騎士たちの団結が強められるとされていた。アデン王は以前からこの朝駆けを楽しみにしていた。


「さようでございます。1週間後になっております。王様はこの地に来られてまだ半年にもなりませぬが、毎年行われております伝統の朝駆けでございます。甲冑を着た騎士たちがこの王宮に駆けつけます」

「そうか。それは楽しみだな。真っ先に着いたものには私がねぎらいの言葉をかけ、褒美を与えるのだな」

「真にそうでございます。騎士たちはそのために鍛錬を行っていると聞いております」


 ドラス大臣の言葉にアデン王は大きくうなずいた。彼は王子としてずっとメカラス連邦の首都のゼロクロスで育った。首都にいた時に聞いた噂ではこの国の政は乱れ、人々は飢饉と重税に苦しみ、人心はバラバラだという。

 それが半年前に急に父の先王が亡くなって、メカラス連邦の評議会から王として任命を受けてこの地に来た。特に評議会の最高顧問のハークレイ法師からは大いに期待をかけられていた。この国の政を正し、人心を安定させて、民を豊かにするようにと・・・。

 だが実際にこの国に来てみて実情は違うように彼には思われた。町の様子を外から見る限り、民は豊かな様であり、大臣の報告もそれと一致していた。


(今のところ政はうまくいき、民は喜んでいる。この朝駆けで騎士たちも団結し、この国をひとつにまとめ上げられる。ハークレイ法師様のご期待の応えられているはずだ)


 とアデン王は思っていた。


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