村の襲撃
トキソ国の王都は栄えているものの、その周辺の村々は以前よりはましになったといえ、まだまだ貧しかった。特に目が届きにくい王都から離れた村は、常に山賊などの脅威にさらされていた。そこで村々で自警団を作ったり、国境を警備する部隊が見回ったりしていた。それで近頃は被害は少なくなってきていた。
それが最近になってまた村が荒らされることが多くなった。畑が焼かれ、家が壊され、家畜が殺された。村の者の多くが殺されたり、怪我を負ったりした。今までにない荒っぽい手口に、犯人がただの山賊ではないように思われた。
この日もラジア公国との国境に近いヨシア村に黒い服に覆面をした一団が忍び寄っていた。彼らは音もなく村に入り、いきなり、
「うわー!」
と大声を上げた。その騒ぎに村人たちは、
「襲撃だ!」
と飛び起きてそのまま家から逃げ出した。そこを襲撃者たちは次々に剣で斬りつけた。暗闇の中で響き渡る悲鳴に恐怖が増大し、どこにいるかもわからずに村人たちは逃げ惑った。やがて襲撃者たちは家や畑に火を放ち、家畜を次々に殺していった。村はいつまでも真っ赤に燃えて焼け落ちてしまい、そこには残骸以外、何も残らなかった。
生き残った村人たちは茫然とした。
(どうして儂らがこんな目に・・・)
こんなことが頻発しているのに誰も助けに来ようとしない。何の対策も立ててもらっていない。そして焼け出された村人に救援の手が差し伸べられることもない。
(王様は儂らを守ってくださるのだろうか・・・)
村人たちの間ではあきらめと恨みの感情で満たされていった。
襲撃者はやり終えるとすぐに村から引き上げていった。彼らは黙ったままひたすら馬に乗って走り続け、やがて国境を越えてラジア公国に入った。そこでやっと黒覆面を取って口を開いた。
「うまくいきましたな」
「うむ。しかしまだ序の口だ」
彼らは山賊ではなかった。れっきとした剣士とその部下の兵士だった。それもラジア公国の・・・。
「トキソ国の国境警備隊は悔しがるだろう。また被害を出したのだからな」
「はい。しかし彼らは王宮に応援を頼んでいるでしょう。警備を厳重にするために」
「ふふふ。それは心配ない。我らの手の者がその連絡を握りつぶしておる。ここでのことは知られぬように」
そう話す襲撃者のリーダーはカイアミだった。これもカイアミ、いやラジア公国のある者の策略の一部だった。
「もう頃合いだろう。これだけ荒らせば動揺が走る。あの男も立ち上がるだろう。次の手に移るぞ。よいな!」
「はっ」
カイアミたちはさらに何かを企んでいるようだった。




