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勝ち

 長いドレスを引きずりながらもサラサ王女は外に出て庭を走った。その後ろをアデン王が追いかけた。やがてサラサ王女は立ち止まった。


「王女。どうしてそのような言い方をするのだ。私は困ってしまう」


 アデン王が声をかけた。


「王様。私は悔しゅうございます。あのリーサという娘のことが頭にあるからでございましょう」

「い、いや。そんなことはない。リーサは私に仕える女官に過ぎぬ」


 アデン王はそう言いながらも、その言葉に自分でも違和感を覚えた。リーサは自分にとってそれ以上に大事な存在だと・・・。


「それならなぜ私とのことを考えていただけないのですか?」

「それは・・・」


 アデン王は答えに窮した。サラサ王女はため息をついて言った。


「やはりそうなのですね。ならばリーサは連れて行きます。王様のそばに置きたくはありません。それに私はあの者を気に入りました。よろしいですね」


 その言葉にアデン王は驚いた。リーサが連れて行かれるとは・・・。


「リーサは我が国の女官だ。それに我が家来の娘でもある。それは止めていただきたい」

「いえ、そうします。このまま連れて行きます。もう一生、王様には会えないようにします。王様がお考えを変えていただけないなら・・・」

「それだけは・・・。リーサは私にとって必要な者なのだ! だから・・・」

「・・・」


 サラサ王女は何も言わずにじっとアデン王を見た。


「王女。考え直してくれ。もしリーサを戻してくれたら何でもしよう。婚約の件も考え直そう。だから・・・」


 アデン王も感情に任せて思わず口走ってしまった。だがそれが彼の本心だった。リーサは何者にも代えられない存在であるのは確かだった。その王の言葉を聞いてサラサ王女は・・・急に「あっははは・・・」と笑い始めた。


「どうかしたのですか?」


 不思議に思ったアデン王は尋ねた。


「あまりにもおかしくて・・・こんなにあっけないとは思わなかったものですから」

「これはどういうことですか?」


 サラサ王女は「はぁ」と息をついて話し始めた。


「私は賭けをしたのです。王様は私とリーサのどちらを選ぶかと。ねえ、リーサ!」


 するとリーサが進み出た。


「はい。王女様の勝ちです。王様は婚約の件を考えるとおっしゃいました」


 するとサラサ王女は首を横に振った。


「いいえ。そうではありません。王様はリーサのためにいかなることもしようとおっしゃったのです。そうですね。王様!」


 アデン王はあまりのことに唖然としていた。


 実は前夜、リーサはサラサ王女とこんな会話をしていた。


 ――――――――――――――――――――


 王女はリーサと賭けをしようと提案した。リーサは訳が分からず、サラサ王女に尋ねた。


「どんなことを賭けるのですか?」

「ふふふ。それはね・・・私は国に帰ることにしました」


 リーサはサラサ王女の言葉に驚いた。


「どうしてでございますか? あれほど王様のそばにおられようとされていたのに。王様の妃になるのではなかったのですか?」 


 リーサの言葉にサラサ王女はふっとに笑った。


「私など王様の目には入っていなかった・・・。王様が見ている者は別にいたのだ」

「それは誰なのです? そんな方がいるのですか?」


 リーサは驚いた。サラサ王女のように美しく身分の高い方を差し置いて、王様の心を虜にする者がいるなど信じられなかった。その様子にサラサ王女はまた小さく笑った。


「ふふふ。それはお前だ! リーサ」

「えっ! 私が・・・」


 そう言われてもリーサは信じられなかった。確かに自分は王様をお慕いしているが、王様が自分のような身分の低い者のことを思ってくれているとは考えられなかった。


「それは違います。そんなことはありません。絶対に・・・」

「いや、そうなのだ。王様は自分の気持ちに気付いてはおらぬ。だが傍目で見る私にはよくわかる」

「そ、そんな・・・」


 リーサは頭の中が混乱していた。目が泳ぎ、手が勝手に動き、紅潮した顔をあちこちに向けていた。サラサ王女はそんなリーサを優しい眼差しで見ながら言った。


「リーサ。だから確かめよう。王様が私を選ぶか、お前を取るかを確かめるのです。これは王様をかけた賭けですよ」

「そ、そんな・・・でも王様が私を取ることはございません」


 リーサはきっぱりと言った。そんなことはないと・・・。


「ふふふ。それはどうかしら。でも私も負けませんよ。せいぜい王様を困らせます。私に気が向くようにしてね」


 サラサ王女は楽しそうだった。


 ―――――――――――――――――――――



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