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賭け

 リーサは侍女に連れられてサラサ王女の部屋に行った。叩かれたムチのあとがまだひりひり痛く、両肩をさすっていた。

 リーサが前に出ると、サラサ王女はすまなさそうに言った。


「ずいぶん痛かっただろう。こんな目に合わせてすまぬ」

「いえ、私が無断でここを抜け出したのが悪かったのです」


 リーサはそう言った。自分に落ち度があったのだからと。するといきなりサラサ王女は単刀直入に聞いてきた。


「ところでお前に聞きたいことがある。王様のことをどう思っているのだ?」

「それは・・・」


 リーサはどう答えようかと迷った。「お慕いしております」とはさすがに答えられない。


「尊敬しております」

「それだけか?」

「はい。王様は私たちにとって尊い方でございます」


 サラサ王女はそれを聞いて笑った。


「ふふふ。いいのですよ。私にはわかっているのです。あなたが王様を慕っていることを・・・」

「そ、そんな・・・」


 リーサの頬がパッと赤くなった。それは王女の言葉が本当だと白状しているようなものだった。


「その上で聞きます。王様の心はお前にあるのですか?」


 いきなりサラサ王女にそう問われてリーサはすぐに返答できなかった。


「どうなのだ?」

「そ、そんな・・・私ごときに王様が・・・そんなことはあり得ません」


 リーサははっきり言った。そんなことがあってはならないのだからと自分に言い聞かせながら・・・。


「そうですか。それでは賭けをしましょう」

「賭けでございますか?」


 リーサはサラサ王女のいきなりの提案に困惑していた。


「ええ、そうです。リーサ。私は負けませんからね。いいですね」

「は、はぁ・・・」


 リーサはよくわからないながらも返事をした。


「では決まりました。ではそのために今夜もここにいてくれますね」


 サラサ王女は微笑んでそう言った。


 ◇


 翌朝、執務中のアデン王は駆けこんで来た女官から急な話を聞いた。


「大変です! サラサ王女が帰国されるとのことです。ごあいさつに謁見場にいらしています!」

「何と! 急な! お前たち、聞いておるのか?」


 アデン王はサラサ王女から派遣されてきた2人の侍女に尋ねた。


「いいえ。私たちもうかがっておりません」

「そうか! また急に思いつかれたのかもしれぬ。謁見の間に顔を出す。準備せよ!」


 それでまた王宮中が蜂の巣をつついたような騒ぎになった。王様の正式な衣装を用意してお着換えとなり、重臣や役人、女官たちを呼び集めた。


 謁見の間ではサラサ王女が待っていた。その背後にはドルネ侍女長と侍女たち、そしてリーサもいた。アデン王が姿を現すと、サラサ王女は深く礼をして話し始めた。


「急ではございますが、帰国させていただきます。ごあいさつに参りました」

「急に帰国されるとのこと。何かあったのですか」


 アデン王が尋ねた。サラサ王女は作り笑いの様な微笑を浮かべていた。


「私はずっと王様のそばにおりたいと思っておりました。しかし王様はそれをお望みにならない・・・。私を嫌っておられる。それで婚約を破棄したままにしておられるのでしょう」

「いや、そうではなく・・・。ただ物事には順序があり・・・」


 アデン王ははっきり答えることができなかった。そこにサラサ王女は畳みかけるように言った。


「ではお答えください。私はラジア公国の王女です。2つの国の結びつきのため私たちの結婚を望んでいる者は多くおります。すぐに結婚ということでもなくても、婚約破棄の件を撤回していただけないでしょうか。国のために、いいえ、私のために」


 サラサ王女はじっとアデン王を見つめた。アデン王は追い詰められた気持ちになった。だがはっきり答えた。


「それはすぐに決められません。それしかお答えができないのです」

「王様のお気持ちがよくわかりました。やはり私を受け入れていただけないのですね。さようなら・・・」


 サラサ王女は顔を手で押さえながら謁見の間を走って出て行った。


「ま、待たれよ!」


 驚いたアデン王はすぐに後を追った。謁見場にいた重臣や役人、そして女官やに至るまで思わぬ事態に戸惑ってしまい、顔を見合わせていた。ただサラサ王女の侍女とリーサはその後を追いかけて行った。


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