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地下室

 女官室は混乱に包まれていた。少し前までは庭の番犬が暴れて1頭、行方不明になったとの報告があって、手の空いた女官を集めて捜索していた。それが終わらないうちに今度は離れが大騒ぎになった。イルマ女官長が女官を派遣して事情を聞いたところ、リーサが逃げ出したというのだ。


「誰か、リーサのことを知らない?」


 イルマ女官長が女官を集めて聞いた。かなり大ごとになっているようで、さすがのマモリも黙っているわけにはいかなくなった。彼女は恐る恐る手を挙げた。


「マモリ! 知っているの?」

「は、はい。リーサさんはこちらのことが気になったようで女官室の近くに来ていました。」

「何か、話した?」

「はい。忙しくて大変だとか、王様のお世話係に王女様の侍女がついたとか、カーラさんは断られたとか・・・」

「リーサは?」

「それだけ聞いて戻ると言っていましたけど・・・」


 マモリは叱られるのではないかと目を伏せていた。イルマ女官長は女官たちを見渡した。


「そういえばカーラは?」

「用事があるとかで・・・」


 スギノが答えた。するとそこにちょうどカーラが戻ってきた。


「カーラ! どこに行っていたのですか?」

「え、ええ。あちこち・・・」


 カーラはごまかそうとしたが、急にいい考えが浮かんでこない。


「どこにですか!」


 イルマ女官長がカーラをにらみつけて言った。


「ええと・・・リーサが気になって・・・ええ、離れでリーサが困っていないか、見に行っていました。」

「離れ? じゃあ、大騒ぎだったでしょう」

「はい。なんでもリーサが王女様に危害を与えようとしているとか・・・」

「なんですって!」


 これにはイルマ女官長が驚いた。女官たちもびっくりして顔を見合わせてヒソヒソ話している。


「リーサさんはそんなことをするわけがありません!」


 いきなりマモリが声を上げた。


「確かにそうね。リーサがそんなことをするはずがないわ」


 イルマ女官長は大きくうなずいた。


「私はこれから離れに行ってくるわ。話を聞いてくる。皆さんはこのまま勤めを続けてちょうだい」


 イルマ女官長は女官室を出て行った。


 ◇


 リーサは離れの地下室に閉じ込められてしまった。そこは日が差さなくて暗くてじめじめしており、床は石畳みでひんやりとしていた。しずくの垂れる音が時折、「ピチャン」と響いてくる。

 リーサはイスに縄で縛り付けられていた。その前にドルネ侍女長と数人の侍女が並ぶ。


「お前は誰に頼まれて王女様を狙った!」

「そんな・・・。私はそんなことはしません!」


 リーサは激しく否定した。


「まだ言うか!」


 ドルネ侍女長は手に持ったムチを地面に叩きつけた。「ビシッ」と鋭い音が地下室に響き渡る。


「早く白状しないと痛い目に会うぞ!」

「信じてください! 私はそんなことしません!」

「この嘘つきめ!」


 ドルネ侍女長は今度は「ピシッ」とリーサの肩をムチで打った。


「あっ!」


 リーサはあまりの痛さに声が出た。


「さあ、言え! 言うのだ!」


 ドルネ侍女長のムチは何度も振り下ろされた。リーサは耐えるしかなかった。


「なんと強情な奴だ! もっと痛い目を見なければわからないのか!」


 ドルネ侍女長はさらにムチを振り上げようとした。その時、


「やめよ!」


 と声が響いた。サラサ王女がこのような地下室にわざわざ下りてきたのだ。


「これは王女様!」


 慌ててドルネ侍女長と女官が頭を下げた。


「これはどういうことだ!」

「この者があろうことか、王女様を害そうとしましたので・・・」

「誰がそんなことを?」

「王宮の女官でございます」

「この者がそんなことをしようとした証拠があるのか?」


 確かに証拠はない。女官のカーラが告げたこととその時にリーサが無断で窓から外に出て行った・・それだけだった。


「それは・・・」

「この者はそんなことをすることはない。縄を解け」

「王女様。それでは・・・」

「いいから解くのだ。その後でこの者を私の部屋に」


 サラサ王女はそう言って地下室を出て行った。リーサはほっとしていた。自分の疑いが解けたと。だがサラサ王女がなぜ自分を部屋に呼んだかはわからなかった。

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