罠
ドルネ侍女長は侍女たちを連れてリーサを閉じ込めてある小部屋に向かった。廊下には人目があるからここから抜け出せるはずはなかった。だが、
「トントントン!」
侍女がノックしても返事がない。ドルネ侍女長が侍女に目で合図した。
「バタン!」
侍女がドアを開けて飛び込んだ。すると中はもぬけの殻だった。窓が大きく開けられている。
「ここから逃げたようです!」
「追え! リーサを探すのだ! 王女様の身が危ない!」
ドルネ侍女長の命令で侍女たちはあわてて外に出て行った。離れは大騒ぎになった。
その様子をカーラが建物の陰から見ていた。
「いい気味だわ! ふふふ」
彼女は鼻で笑っていた。
◇
リーサは離れに戻る途中、庭を散策するアデン王の姿を目にした。
「王様!」
と駆け寄ろうとしたが足を止めた。そのそばにサラサ王女がおり、その後ろに侍女が2人がついてきていたからだ。
アデン王はサラサ王女と仲良く並び、親しそうに話していた。その様子は「王様と王妃」そのものに見えた。
(お似合いだわ。王様と王女様・・・。2人は御結婚されるのね)
リーサは少し寂しい気持ちになったが、もしそうなったら祝福して差し上げようと思っていた。いくら自分が王様を慕っていても、身分が違う以上、それは許されるはずが、いや、考えることさえ許されないと思っていた。
やがてアデン王はサラサ王女と離れて王宮に向かった。また執務に戻るようだ。2人の侍女はサラサ王女を離れに送っていった。
アデン王は一人で歩いていた。リーサはなぜか、王様にお声をかけたくなった。王様の表情が寂しそうだったためか・・・それとも丸一日以上、王様のそばを離れていたためか・・・。
「王様!」
リーサはさっと駆けて行き、王宮に向かうアデン王の背後から声をかけた。
「ん?」
いきなり呼ばれてアデン王が後ろを振り返ると、そこにリーサが立っていた。王様の表情が明るくなった。
「リーサ!」
「王様。お元気そうで何より・・・」
リーサは頭を下げた。
「いや、お前がいなければ元気が出ぬ。早く帰ってまいれ」
「はい。王女様のお許しをいただければすぐに・・・」
リーサは笑顔になった。王様にそう言われて彼女はうれしかった。だから仲睦まじく見えたお2人のことを言って差し上げようと思った。
「王様。先ほどからお二人のお姿を拝見いたしておりました。王女様とお似合いでございます。王女様はよいお妃になられましょう」
リーサにそう言われてアデン王は慌てた。
「いや、そうではない。そうではないのだ。偶然、ここで会っただけなのだ」
「王様。何をお慌てになっているのですか? 私はよいことだと思います。では私はこれで失礼いたします。王女様が離れにお戻りになり、私をお呼びになるかもしれませんので」
リーサはそう言うと頭を下げて帰って行った。残されたアデン王は困った顔をしていた。
リーサは走って離れに向かっていた。だがそこは大騒ぎになっていた。王女様の侍女たちが走り回っている。その様子は誰かを探しているように見えた。
(どうしたの? 何かあったの?)
リーサは自分のことで大騒ぎになっているとは思いもよらなかった。すると、
「いました!」
と辺りに声が響きわたって、リーサはすぐに侍女の一団に囲まれた。
「リーサ! どこに行っていた!」
ドルネ侍女長が怖い顔でにらみながらリーサに近づいてきた。
「えっ! すいません。少し王宮のことが気になって・・・」
「お前はあの小部屋にいるように言われただろう!」
「すぐに帰るつもりでした。でも途中、王様と王女様のお姿をお見かけして・・・」
それを聞いてさらにドルネ侍女長の目が吊り上がった。
「お前! まさか、王女様に・・・」
「えっ! 何のことですか?」
「隙あれば王女様に危害を加えるつもりだったのだろう!」
「そ、そんな・・・」
リーサはいきなりそんなことを言われて気が動転した。
「それを証言する者もいる。こいつを捕まえろ!」
ドルネ侍女長は侍女に命令した。侍女は周囲からリーサの腕や体をつかんで逃げられないようにした。
「私は何も・・・」
「だまれ! 拷問でもして口を割らしてくれる!」
リーサはそのまま離れに連れ込まれた。
その様子もカーラは建物の陰からうれしそうに見ていた。
「これでリーサはおしまいね。よくて王宮追放。もしかしたら死罪かもね。さあ、もう用事も済んだし、私も戻ろうっと」
カーラは王宮の方に歩いて行った。




